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[ おほやけ =公= 《戦略情報研究所会員向け情報 No.57. 17.5.20》]

■中国反日デモの研究(2) WTO加盟は黒船の到来だった
                                    
             青木直人(ジャーナリスト)

 貧しいなりに平等だった毛沢東の時代からトウ小平の開放政策を経て、2001年12月、中国は国際経済秩序に参入を決断した。WTO〔世界貿易機関〕への加盟である。中国4000年の歴史上、初めてグローバリゼーションが国内を覆い尽くす。だが加盟の決断に至る内幕はほとんど知られていない。

 実のところ、この決断をもろ手をあげて歓迎した共産党の指導者はひとりもいない。朱鎔基首相は『農業と自動車産業を守る自信はない』と告白しているし、計画経済重視派の李鵬全人代委員長(元首相)もまた『時期尚早論』を唱えていたのである。

 事実そうした傍証として、WTO加盟の最大の山場と見られていた99年4月の朱首相の米国訪問のニュースは人民日報も新華社も大きくは扱っていない。西側のメディアが大きく取り上げていたのとは対照的だった。

 国内の民族国有産業は建国以来、共産党党組織の最大の足場になっていた権力基盤だが、加盟に対する彼らの反対と不安の声が圧倒的だったため、派手な報道を控えざるをえなかったのである。

 だが最後には中国は加入に踏み切った。当時の「親米派」江沢民総書記の政治判断のよるもので、そこには切羽詰った理由があったのである。

 中国経済が今以上に成長するためには外国からの投資をさらに拡大する以外に選択肢はない。これが指導部のコンセンサスだった。

 ここがポイントである。成長を通じた「生活の豊かさ」だけが国民の政権に対する信任を保障するカギであり、成長以外に雇用の安定を保証することは不可能だった。そうした彼らの決断には歴史的背景があった。

<社会主義体制の崩壊>

 天安門事件直後、相次いでソ連東欧諸国が崩壊した。大砲を重視するあまりバターを国民に提供できなかったからである。歴史的文脈からいえばこれは既存社会主義が、戦時共産主義体制とイコールだったスターリン主義と決別できなかったということでもある。

 事態を前に、中国共産党は生き残りをかけて、マルクス主義を捨てた。

 転機は92年のトウ小平による南巡講和である。老革命家はこう叫ぶ。

「なにが資本主義でなにが社会主義か、などという論争はやめよ」「生産力をあげるものはいいものなのだ」と。

 こうして中国「市場経済」はスタートした。「市場経済」の文言は94年の14回共産党大会の党規約にも書き込まれた。以後膨大な海外からの投資資金が中国に殺到する。中国は「大国」に成長した。公式の報道では年間平均的成長率は9%。

 世界1である。ソ連は倒れたが、中国は生き残った。世界は中国を大国として遇し始めた。

 天安門事件で経済制裁に踏み切った西側諸国も結局制裁解除に向かわざるを得なかった。

 声高に中国の人権とビジネスのリンクを叫んだ米国もクリントン大統領自身98年には、歴代で最大数の同行者1200人(多くはビッグビジネスのトップらである)を引きつれ、同盟国である日本と韓国にも立ち寄らず、9日間もの長期にわたって中国に滞在した。1776年の合衆国独立以来はじめてのことだった。

<「国民党化」する共産党>

 だが、「選ばれし者の恍惚と不安。ふたつ我にあり」(太宰治)

 これが。中南海の指導者の胸中でもあった。

 「不安」はいつまで成長が可能なのか、さらに市場経済の最大の敗者がかってなら社会主義の主人と呼ばれた労働者と農民にならざるを得ないことにあった。これから本格化するのは社会主義から自由市場への体制転換なのである。

 彼らが社会的敗者の地位に甘んずるのかどうか。蒋介石国民党政権を打倒した共産党が知らないはずはない。必ず異議申し立てはおこる。「不安」はそこにあった。

 同時に共産党組織の溶解現象も進んでいた。

 イデオロギーは空洞化し、共産党員は革命家ではなく、マネージメント能力を求められた。いかに儲けるかが党員の出世のバロメーターになる。

 1930年代、蒋介石国民党政権の金権まみれは深刻だった。

 市場経済は共産党の「国民党化」を加速した。

 腐敗と賄賂は蔓延し、開放政策から25年間で、一層腐敗は「高度化し、組織化し、大規模化している」〔胡錦涛総書記〕のが現実である。

 中国の宿痾(しゅくあ)としての賄賂構造。関心のあるかたは清朝時代の役人の生態を描いた「官場現形記」(李宝嘉)を一読されたい(平凡社「中国古典文学大系」50・51)。



[ おほやけ =公= 《戦略情報研究所会員向け情報 No.56. 17.5.14》]

■核問題と北朝鮮の混乱

                                    
            荒木和博(戦略情報研究所代表)

 このところ北朝鮮が核の燃料棒を取り出したことが話題になっている。

 北朝鮮外務省のスポークスマンが11日、「最近、われわれの該当部門では、5千キロワットの実験用黒鉛減速炉から8千本の使用済み燃料棒を取り出す作業を最短期間内に成功裏に終えた」との報道分を発表した。そして、「われわれはこれにより、自立的核動力工業を発展させることを基本にしながら、醸成された状況に対処した防衛的目的から、核兵器庫を増やすのに必要な措置を引き続き講じている」とまで言いきっている。

 考えてみれば不思議な話だ。イラクは「核兵器など持っていない」と言っていたのに、米国は「持っているはずだ」と言って軍事攻撃を行った。そして今も核兵器は見つかっていない(もちろん、見つかっていないから持っていないということの証明にはならないが)。

 北朝鮮の場合は何度も持っていると宣言し、さらに燃料棒まで抜き取る作業をしているのである。イラクに比べたら危険千万で、公平(?)に考えたら米国はとっくに空爆をしていて不思議ではないはずだ。しかし、この「おほやけ」で青木直人氏がたびたび論じているように、現在米国は中国からの圧力で北朝鮮問題を処理しようとしている。安上りかつ自分に責任が問われない形であれば北朝鮮の体制変更に手を付けるかも知れないが、基本的には中国に「あん
たが親分なんだから、ちゃんとやった方がいいよ。そうしないと日本や台湾が核を持つよ」といって対応を迫り続けるだろう。

 そして、米国と話合いをしたくて仕方のない北朝鮮はますます挑発をエスカレートするだろう。それが度を越せばまず起きるのは中国からの強硬な介入であり、さらにエスカレートして、例えば米軍基地が何らかの被害を受ければ、いくら軍事攻撃したくなくても米軍の攻撃は避けられない。

 それなら、何で北朝鮮はこんな馬鹿げた挑発をするのか。要は金正日のリーダーシップが失われているからである。もともと、金正日の基盤は軍に依拠していたのであり、父金日成と異なりカリスマ性はなかった。しかし、それでも3年前の小泉訪朝のときは拉致を認める決断は金正日が行ったと言われており、この時点ではまだある程度のリーダーシップはあったと思われる。しかし、半年位前から、明らかに金正日の力は低下している。

 金正日が方向性を出せない状態で、あの硬直した独裁体制がどう動くか、方向は一つしかない。これまでの方針の踏襲である。10年余前、クリントン政権を相手に、破格の「ジュネーブ合意」を実現したのは、「北朝鮮を刺激すると核開発をやる」という、駄々っ子が包丁を振回すようなやり方だ。このときは、たまたま米国の大統領がクリントン、韓国の大統領が金泳三という、最悪のコンビ(韓国の方はその後の2人でもっと悪くなるが)だったことが災いし、駄々っ子に飴をしゃぶらせてしまった。しかし、今の状況は完全に変わっている。

 今の状況は、米中、それに日本も含め周辺三大国は呆れ返って「もういい加減にしとけよ」という状況だ。もともと、歴史上朝鮮半島は国際紛争の焦点にはなるが、それはあくまで半島の向う側にある大国との関係である。日本とロシア、米国と中国というように、「その向こう」にある国との関係をどうするかというときに使われるのが朝鮮半島であって、朝鮮半島自体に関心があるわけではない。しかし、北朝鮮(まあ、韓国もそうだが)はそのことに気付いていない。

 そして、いくら「核を持っている」と言っても相手にしてくれないので挑発を繰り返すのである。しかし、それが自らの体制に危険な行動であることは分かっているだろう。それでも、リーダーシップのない状態ではその方向に進むしかないのである。人のことは言えない。大東亜戦争における日本の戦争指導方針にも同じようなことはあったのだ。問題は、これを分析する側で、北朝鮮の意図を過大評価し、緻密な戦略に基づいてやっているかのように考え過ぎることである。

 日本はどうすべきか、当然、さらに圧力を強めなければならない。そして中国に対しては「意外と北朝鮮に影響力がないんですねえ」と、あちこちで皮肉の一つも言うことだ。マンガチックに聞こえるかも知れないが、中国を動かすには「面子を潰す」ことも効果があるのではないか。素人考えに過ぎないが、意外な結果を生むのではないかと思う。

 米国は口ではともかく、朝鮮半島に本気で介入するつもりはない。途中で別の要因が入ってくる可能性もあるので断定はできないが、日本に対して「あとはそっちでやってよ、おたくの縄張りなんだし」ということになってくる可能性が高いと思う。それは逆に言えば日本にとって千載一遇のチャンスでもある。



[ おほやけ =公= 《戦略情報研究所会員向け情報 No.55. 17.5.13》]

■王家瑞の警告-----党と政府・ふたつの発言を読む-----
                                    
                      青木直人(ジャーナリスト)

 友党に関する発言や声明についていうと、社会主義国では政府外務省ではなく、党の対外連絡部の発言のほうが優位にたつ。つまり発言の重みが違うのである。

 ここ数日、北京で北朝鮮の核実験の動向に関して、相対立するふたつの発言が聞こえてきた。

 まず10日、米国の北への石油支援中止要請を報じた件について、外務省スポークスマンが回答。重油供給は通常の国家間の問題であり、停止しない、また「圧力や制裁は必ずしも効果はない」と発言している。

 だがこと、北朝鮮についていえば外務省の発言は表の公式のものであって、通常踏み込んだ発現はしない。権限がないからだ。当然必ずしも中国の本音を代弁したものとは言えないのである。
その2日後、王家瑞中央連絡部部長が日本の民主党議員に対して北の核実験に、「反対しない国はいない」、実験が行われれば、中国は「強烈な反応を示す」と警告している。王は「事態はそこまではいかない」とも語っているが、これはリップサービスであって確証のある話ではない。だがこちらが本音である。

 王部長は共産党の意向を代弁する人物で、北朝鮮党外交の最高責任者である。この2月にも6カ国協議に北を復帰させるべきピョンヤンを訪問し、北に対してはじめて北の核開発は中国の安全にとってマイナスである」と伝えている(「おほやけ」42号)。だが説得は失敗。懸案の胡錦涛総書記の北朝鮮訪問も実現していない。

 今回の発言の意味は明確である。核実験にまで突き進んだ場合、北朝鮮をもはや擁護はできないということだ。制裁を示唆する発言なのだ。
 私はそうなった場合、中国は一般的な支援だけでなく、前回触れた中朝友好協力条約にまで踏み込んで、棚上げを目論むのではないか、と考えている。

 現実には、北の瀬戸際外交が中断する可能性は小さく、かりに6カ国協議が再開されても北が譲歩する期待は持てない。だとすれば、金正日体制が続く限り、事態は本質的に何も変わらず、時間だけがむなしくすぎてゆくだけなのだ。中国は追い詰められてきている。手持ちの北朝鮮カードを対米関係を考慮しながら、エスカレートさせる以外にないのである。

 将軍様は中国という虎の尾を踏もうとしている。

 これから注目すべきは二点ある。

 中国の「党」と「軍」要人の口からどんな発言がでてくるのか。それは外務省スポークスマンの発言以上に注目すべきだ。これが政策転換のバロメーターになるはずだからである。

 また米国と中国を中心にした国際社会からの外圧が北の内部の政治力学にどう影響を与えるのか、もポイントになる。金体制は崩壊の道を加速しつつある。



[ おほやけ =公= 《戦略情報研究所会員向け情報 No.54. 17.5.5》]

■中国反日デモの研究(1)
   =「義和団」の登場と北朝鮮拉致日本人の奪還について 

                  青木直人(ジャーナリスト)

<<反日は反政府でもある>>

 中国全土に拡散した当局主導の反日デモはひとまず収束した。だが再発の火種は健在である、共産党中央は今後も自らが点火したデモの火消しに追われ続けるだろう。力による封じ込めは根本原因の解決にはつながらない。

 中南海の最高指導者たちの危機感は強いままである。

 「おほやけ」50号で指摘したように、今回のデモの本質は市場経済政策のもとで始まった国内の階層矛盾の表れである。デモはいまのところ、表面上、日本に対する民族的、外交的な憤激の様相を見せてはいるが、本当のところは国内できしみを始めた国民諸階層の利益対立の表面化であり、市場経済のメガコンペンション〔大競争〕が生み出した敗者たちの異議申し立てなのだ。怒りの裏にあるのは市場経済が生み出した「不公平」である。

 いずれデモのスローガンが反政府に変わる時が必ず来る。当局がデモ参加者を逮捕している事実と並んで、労働運動家などに対する拘束をはじめていることに注目していただきたい。

<<排外主義の噴出>>

 今回、日本人は始めてチャイナリスクを実感した。東北地方ではアサヒビールが、上海ではソニーの商品がデパートの店頭から撤去され、日本車に乗車していただけの無関係な中国市民が襲撃された。日本人は街頭で日本語を自由には話せない。現在までのところ、階級矛盾は排外的な日本と日本人に対するレイシズムとなって噴出している。かってナチスはこのようにしてユダヤ民族を攻撃したのである。日本人はこの事実をしっかり頭に刻み込んでいてほしい。

 私は3年前に上梓した文庫本の中で、来るべき中国の動向について次のように指摘した。自己宣伝めいて不愉快に感じられた方がいらっしゃればご寛容に願いたい。

「長い中国の歴史のなかで、初めて本格的なグローバリズムの時代が到来する。生き残りをかけて、外国資本の進出に備えるためにも、国内産業の高度化と巨大化は避けられない。政府は限られた資本と技術を、少数の「赤い財閥」に
集中する・・・。だが大多数の国内民族企業はグローバリズムの波に解体と淘汰を余儀なくされる」と、中国が2001年にWTOに加盟した後の事態は必ずしも予断を許さないと分析し、これから中国で起こるシナリオは100年前に義和団が登場した際の社会状況とそっくりであること、また同時に、「やり場のないナショナリズムが中国全土を席捲するだろう」と指摘した。
〔「中国に再び喰われる日本企業」小学館文庫・2002年3月〕

<<外国企業が中国人の職を奪うとき>>

 さらに当時から加速しつつあった日本企業の中国進出ラッシュに対しこう警告した。

 「中国の危機。それは社会主義経済から自由主義経済への移行期にあるということだ。競争力をもつためには合理化は不可欠で、成長の代償に払うべきは失業である。・・国民はあきらかに豊かな勝ち組と貧しい負け組に分解し、これにくわえて、外国企業に職を奪われた人々が続々と生まれてくる。私は労働者の怒りが「反日」に結びつく事態を恐れる」
〔「諸君!」 総額9兆円の遠交金交白書 ・平成16年4月号〕

「中国市場経済を支えているのは外国からの旺盛な投資なのである。外資の進出は中国を成長させた。だが繁栄の裏では弱者の淘汰が不可欠なのだ。・・。競争力の乏しい国内産業は淘汰され、倒産し、失業者を生み出すだろう。中国各地でデモや当局への抗議など弱者のうめき声が聞こえ始めた。日本企業のリスク。それは小泉首相の靖国神社参拝ではない。自社の中国進出が生み出す失業者からの異議申し立てなのである」
(「諸君!」東アジア共同体という悪夢・平成17年2月号)

 この4カ月後、反日デモが中国全土に燎原のごとく広がった。

 日本の某化粧品会社の上海代表は告白する。「怖くなるときがありますよ。内陸にいくと、中国の民族資本の経営するデパートがどんどん台湾など外国資本に買収されつつある。市場経済が進めば、最初に中国企業が淘汰されるんです」。

 100年前もそうだった。清朝政府はすでに弱体化、押し寄せる外国の商品が中国の地場産業を解体し、キリスト教が軍事力を背景にして沿岸部に布教を本格化しつつあったあの時代。義和団は「清国を助け、洋夷を打つ」と叫んで、愛国攘夷に突き進んだ。いまの「愛国無罪」となにもかわらない。だが義和団が諸外国の干渉と清朝の裏切りで壊滅したように、すでに中国政府による反日デモへの封じ込めが始まった。デモは当局に管理可能な範囲でのみ許容されているにすぎない。いずれ共産党は本当に我々の味方なのか、という怒りの声が聞こえてくるだろう。

 義和団事件は米国との関連でも再注目すべきである。事件のころ、米国のジョン・ヘイ国務長官の有名な門戸開放宣言が明らかにされた。1898年の米西戦争によって海外にはじめて権益を手にした米国が海洋国家に変身した際に宣言は行われた。以後、米国の視線は太平洋を越えて、中国大陸に注がれる。

 WTO加盟で最も政治的に利益を得た国家は米国である。

 人民元の自由化など金融部門に食い込んだ米国資本の勢いは特筆すべきもので、米国はここを梃子に中国発「和平演平」を目論んでいる。何をバカな、と一笑に付されるかも知れないが、親米中国が登場する可能性は存在している。

 だがほとんどの日本人はそうした実態を知らないし、想像すらしていない。ここれに関してはいずれ機会をみて、詳細に触れたい。


<<「日本処分」>>

 荒木和博氏はさる4月24日の国民集会の席上、「来年12月末までにすべての日本人を奪還する」と宣言した。

 彼にはそう言いうるだけの合理的な情勢分析があるのだろう。朝鮮半島は今年後半から米国が主導する形で、6カ国協議と国連での制裁協議の両にらみの様相に入る。カギは中国である。ワシントンから北京にさまざまな飴とムチが投げられるはずだ。断言してもいい。米国が本気で北の核の排除と体制の変更をやるという方向性をさらに明確化すれば、韓国はともかく、中国は「変身」する。

 米中両国は北朝鮮崩壊を望んではいない。彼らの目的は北の政権変更〔レジューム・チェンジ〕だけである。中国は国境の安定を確保するため「非敵対政権の永続」を望んでいる。条件が満たされれば、中国の圧力で北朝鮮の新政権は核とミサイルの放棄に踏み切るだろう。そうなれば、米国もまずは一安心である。

 だが我々からいうと、日本が米国政府と世論をひきつけながら、主体的に拉致日本人全員の奪還に成功しうるのかどうかが最大のポイントになる。政府認定拉致被害者16人の帰国で手打ちにされてはたまらない。奪還に成功しなければ、次には「日本処分」が始まる。我々の血税が「朝鮮の再建のため」に投じられる。いまのままなら政府は「東アジアの安定と平和のため」にそうするだろう。そこには国家の意思はどこにも見られない。日本人の知恵と勇気が問われている。その時期はそう遠くはない。

<<対中国カードとは>>

 日本も中国を梃子にして、「北朝鮮処分」を促進させなければならない。カードはあるのだ。

 ODAもそのひとつだ。現在、円借款は削減中だが、今後も残すと噂される無償援助の案件が医療人道分野と環境分野といわれている。だが、この分野に大きな発言力をもっているのはいずれも登小平の子供たちなのである。露骨すぎるほど露骨なネポティズムなのだ。援助の使い道は必ずしも透明化していない


 このパイプを塞ぐのである。中国要人のポケットマネー化している援助疑惑を逆に利用して、中国をけん制することが必要なのだ。

 拉致こそ最大の人道問題である。中国の協力がないのなら日本も人道援助はできない。政府はこう突きつけてほしい。

 また第三機関を通じた迂回融資も活用できる。というのも、日本からのODAは中止の方向だといいながら、アジア開発銀行〔ADB〕の場合、今年から3年、1年あたり、日本の円借款のほぼ2倍もの金額の支援が中国に、それも交通インフラに供与されることが決定している。ADBは日本が最大の出資国であり、同時に歴代の総裁はすべて日本の財務省高官の天下りである。円借款を減らしながら、他方で日本のカネで運営されているADBからの対中支援金額は膨大に膨れ上がっているのである。ここも見直すべきである。国民の税金が原資なのだから。

 中国カードが効果があるのは、中国にとってこれからなによりも「安定」が必要不可欠になっているからだ。今回のデモ禁止の理由も「安定の確保」だし、そもそも、いまはなき登小平の遺言も「安定が一切を圧倒する」というものだった。安定のカギは長期的に外国からの技術と資金を導入することにかかっている。日本が北朝鮮を揺さぶる道具として、中国への支援を見直すことに成功すれば、中国進出に拍車をかける諸外国の投資の不安定要因になることは間違いない。これには中国も強い警戒感を示すはずだ。なぜなら中国社会は客観的にみて、今後いやでも不安定化せざるをえない構造にあるからだ。その理由をこれから何度かにわけて、書きたい〔続く〕。

※文中トウ小平の姓については漢字がないため「登」で代替しました。


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[ おほやけ =公= 《戦略情報研究所会員向け情報 No.53. 17.5.2》

■「責任」について
               荒木和博(戦略情報研究所代表)

 尼崎の惨事は想像を絶するものだった。お亡くなりになった方々には心よりご冥福をお祈りしたい。

 このようなとき、私自身には何をしてあげることもできないのだが、可能なことがあるとすれば、少しでもその死を無駄にしないようにすることだろう。亡くなった方々の犠牲を忘れることなく、今後同様の事故がおきないように、あるいはそこから得た教訓で別の被害にあったかも知れない人を救うことが、残された者の義務だと思う。

 ところで、この事故があったとき、最初に想起されたのはJR西日本の社長以下責任者のことだった。もし私がその立場にいたら、どうやって責任をとるのか。もちろん、たとえ責任者が自殺したとしても亡くなっ方々が帰ってくるわけではない。それでも、おそらく多くの責任者は、直接事故には関係ないのだが、今後一生十字架を背負って生きていかなければならないはずだ。その立場に身を置くと、さまざまなことが見えてくる。

 亡くなった人数で事態の大小を測ることはできないが、同じ兵庫県で起きた阪神大震災の死者は6,433人である。しかも、このうちどう見ても1000人以上の人々は初動の対応さえ適切であれば亡くならなくてもよかった人々である。
地震が起きてから半日、何もしないままに過ぎてしまった総理大臣のおかげで、少なくとも今回の事故の10倍以上の人が命を落したことは間違いない。

 地震の後、英国のマスコミだったか、「虐殺」という言い方までしたと記憶している。出る準備を整えていた自衛隊に出動を命じることもなく、あるいは第七艦隊の派遣まで申し出たという米国(あの、これまた最低のクリントンでさえ)の協力まで断ったのが村山富市政権である。

 しかし、震災から10年、村山内閣の責任は多くの人が忘れてしまっている。おそらく、村山元総理本人も自分に責任があるとは思っていないだろう。一方、今回の事故では、JR西日本の幹部は長く追求され続けるに違いない。結局、人間大き過ぎる事態はかえって見えないのではないか。

 拉致問題でもそうだ。先日の田中実さんの拉致認定について、警察庁は発表した文書の「捜査の経緯」で次のように書いている。

「1、本事案については、関係者が、雑誌記事等において、北朝鮮の工作組織が敢行した拉致事案であることを強く示唆しているところであるが、兵庫県警察では、それ以前より独自に情報を入手した上で、発生当時にさかのぼって関係者を割り出し、参考人からの事情聴取や、広範囲に及ぶ聞込み調査を実施した上、所要の裏付捜査を行うなど、北朝鮮による拉致の可能性を視野に、鋭意捜査を進めてきた。しかしながら、発生から相当の年月が経過していることなどから、当時の状況を把握することは困難を極めていたところである。

2、こうした中、平成14年9月、金正日国防委員長が、日朝首脳会談の席上で、日本人拉致を認め、謝罪して以降、拉致容疑事案に対し国民が高い関心を示すようになったほか、報道においても、拉致被害者やその可能性が指摘される失踪者について、大きく報じられるなど、捜査を取り巻く環境に大きな変化が生じた。

3、警察では、こうした状況を受け、拉致容疑事案の全容解明に向けて、昨年10月、全国の拉致容疑事案担当課長を招集した会議を開催するなどして、関係都道府県警察や関係部門が緊密に連携し、警察の総合力を発揮して捜査を推進してきたところである。

4、本事案についても、白紙の立場から、捜査事項の徹底した洗い直しを行い、関係者等と思料される人物から事情聴取を試みるなどしたところ、本事案を拉致容疑事案と判断するに足る具体的な供述を、新たに入手するに至ったものである。」

 いかに警察が熱心に仕事をしてきたか、そしていかに、この問題が難しかったかということだ。そして金正日が拉致を認めて世論が高まったことで情況が変化し、新たな供述を入手したので拉致と判断したというのがこの国の警察の発表である。

 しかし、私は拉致問題に関わってから、何度も代々の警察庁幹部から「警察は法と証拠に基づいて厳正にやっている」と聞かされてきた。厳正にやっているなら国民の関心など関係ないはずではないか。増元照明家族会事務局長が言っているが、家族会ができるころまで、家族は「政府は自分の見ていないところでちゃんとやっていてくれるのだろう」と思っていた。しかし、現実には何もしていないどころか、蓋をしようとしてきたのだる。
 
 おそらく、阪神大震災の対処についてお役所に質せば、これと同様、いかに予測が難しかったか、事態発生以後政府がいかに迅速に対処したか、滔々と述べるだろう。そして、「犠牲者が出たことはまことに遺憾であった」とか言っておしまいである。

 地震直後、1月20日の衆議院本会議答弁で村山総理は、対処が遅れた理由を「何分初めての経験でもございますし、早朝の出来事でもございますから、幾多の混乱があったと思われまする」と言っている。一国の総理大臣が、6000人余の犠牲者を出したことに対してこの言葉はないだろう。同様、拉致事件も、全てが明るみに出たとしても、この国の権力者は、おそらく誰も責任をとらないはずだ。そして、いかに一所懸命やってきたかだけを言い続けるだろう。JRの幹部は厳しく責任を問われる。それは仕方ないことであり、それが責任者なのだが、ミスは大きければ大きいほど皆見過してしまうのか、そんなことは絶対にあってはならないはずだ。

 この責任論でいくと、もっと大きな責任は半世紀前の敗戦である。敗戦の責任を本当に感じたのは昭和天皇と、自決した何人かの軍人のみと言っても過言ではない。近衛の自殺は責任をとったというに値しない。米国の占領は本来の責任を忘れさせるのに極めて好都合だった。机上の空論にもとづく無意味な作戦で命を失った将兵、民間人は数知れず、これが戦後日本の様々な問題点の根源である。このことについては前にも述べたことがあるが、日を改めて書いてみたい。

 私は去る4月24日の日比谷公会堂で開催された国民大集会で、「来年末までに拉致問題を解決する。それができなければ責任をとる」と宣言した。多くの人の前で言えば後戻りはできなくなるはずだ。しかし、それが果たせなかったとき、北朝鮮で死んでいく被害者、再会を待たずにこの世を去っていく家族に対して、そしてこの国をつくってきてくれた祖先と、これからこの国に生れていく子孫に対し、どういう責任をとるべきなのか、あらためて考えているところである。

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[ おほやけ =公= 《戦略情報研究所会員向け情報 No.52. 17.4.29》

■追い詰められる胡錦涛 
--強まる米国の圧力と中朝首脳会談のゆくえ--

                  青木直人(ジャーナリスト)

 反日デモをきっかけにした日中関係の緊張化のせいであまり話題になっていないが、懸案の胡錦涛中国共産党総書記の北朝鮮訪問がなかなか決まらない。訪問は一年前に北京を訪れた金正日総書記が、胡錦涛に直接口頭で招請したものだ。その目的が米国や日本に対し、中朝間の伝統的な友誼をアピールすることや中国政府から一層の食料やエネルギーの支援を要請することにあることは言うまでもない。

 他方、中国は自国が北朝鮮に対して影響力をもっていることを内外に示したい。つまり北朝鮮カードを対外的に切って見せる必要性があるのである。中国はこれまで、北朝鮮問題については、ほぼ一貫して積極的かつ主体的には関与してこなかった。そうした政策を転換、2年前から六カ国協議のホスト国に名乗りをあげた。だが協議はストップしたまま、もう1年近く開催されていないままだ。

 そもそも中国を動かしたのは台湾の動向だった。民主化を実現し、民意を背景にして独立に向かわんとする台湾。中国はこれに対してなんの外交カードももっていない。中南海の指導者たちの決断は伝統的な「遠交近攻」外交で、米国を通じて、台湾をけん制することだった。取り引きの材料にされたのが北朝鮮の核である。

 米国もまた北朝鮮の「同盟国」中国を北をコントロールしようと「遠交近攻」外交に踏み切った。代償は台湾の核武装と独立を許容しないことだった。新たな「72年体制」が誕生しつつある。

 日本の核武装の可能性もまた両国は話し合いのテーブルにあげているはずである。

<<米中関係は後退しない>>

 米中戦略協力のシンボルが6カ国協議の開催だった。 米国は1年間も中断したままの話し合いのテーブルを去ろうとしていない。中国も同様である。

 米国では中国の北朝鮮への圧力不足を非難する声はあるが、中国抜きで米国単独の軍事的オプションを模索する動きは少数にとどまっている。中国の関与をどう促すかがメインテーマなのである。

 中国もまたライス米国国務長官の3月の訪中の際、彼女が中国を離れた当日の「人民日報」に「ライスは中国との戦略的関係を重視する人物で、ネオコンとは一線を画している」と異例の論文を掲載。(「おほやけ」第49号参照)

 彼女の反国家分裂法案への激しい批判や民主化政策の支持にもかかわらず、「ライスはネオコンではない」と共産党機関紙が国内外にライス弁護の論評を掲載しているのである。中国が米国との対決ではなく、協調に利益を見出しているのかがここからも理解できる。両国間に横たわる戦術的対立を戦略的対決と誤解してはならない。

<<胡錦涛外交の試金石>>

 江沢民の後継者・胡錦涛は2002年の第16回共産党大会で総書記に選出されて以後、これまで最高指導者としてピョンヤンを訪問したことはない。当然彼が北を始めて訪問し、金総書記と会談するとなると、最高指導者としてそれなりの成果が必要である。最も望ましいのは北朝鮮が中国の「同志的説得」に応じて、核を放棄することである。だがこれは金総書記には呑めない。中国の自国優先政策である「北朝鮮カード」を容認することになるからだ。北は北で、独自に米国と取引したいからである。

 中国はいま踏絵を迫られている。米国か北朝鮮か、どちらにつくのかである。経済貿易分野ではWTO〔世界貿易機関〕に参入したことで、米国の主導する国際経済秩序の一員となった。だが、政治外交安全保障の分野ではあきらかにパックスアメリカーナの挑戦者となりつつある。

 ブッシュ政権は一面では中国を軍事的に封じ込めつつ、同時に中国に北朝鮮処分を断行させることで、現存秩序に取り込みたいのである。

 中国が北に対してもつ最大の恫喝材料は食糧とエネルギーの支援以外には「中朝友好協力相互援助条約」〔1961年締結〕の破棄しかない。なかでも第2条の相互防衛規定が北朝鮮のよりどころなのだ。中国が支援の停止に言及すれば、労働党政権内部に深刻な亀裂を生み出すことは間違いない。中国が現在も条約を破棄しないことをもって中朝の関係は切れないと断言する論者がいる。そうだろうか。冷戦時代ならいざ知らず、もはや米国と中国が朝鮮で覇権を争う可能性はゼロに等しい。米国・韓国〔日本〕は中国の直接的な敵ではなくなっている。中国にとっての条約は死文化している。北に中国の安全に脅威でない政権が残るならば、中国は金政権防衛にはこだわらないはずだ。

 だが、早々簡単に条約が恣意的に白紙にされたのでは、どんな国も中国を信頼して、外交関係を結ぼうとはしない。中国は北朝鮮を「処分」するための大義名分を必要としている。国連での決議はそのひとつになりうる。

<<血を流した者たち>>

 朝鮮半島政策がこれまで中国外交のなかでオープンに論じられなかった最大の理由は、ことが解放軍マターだからである。朝鮮問題とは中国にとって結局のところ (1)国境の安全保障の問題 であり (2)隣国の核保有の問題 なのだ。
 当然解放軍の発言権は重い。

 私もこれまで北京の政府系シンクタンクのスタッフと朝鮮半島動向について何度も話し合ってきたが、実に口が重い。ある研究者からは「政治的な縛りがあって、実名では勘弁してほしい」とプライベートな席で本音を打ち明けられた体験もある。

 さらに歴史的経緯もある。すこし脱線したい。

 日本の最も優れたシナリオライターだった亡き笠原一夫氏のヒット作「仁なき戦い」のなかに、広島県警に引退声明を出したはずの某組長が最大勢力「天政会」の内部分裂に際して、引退の真偽を問う声にこう言い放つシーンがあった。

 「わしらも広島じゃあ、血をながしとるんじゃけんのう。口を出す権利はあるはずじゃ」と。

 ならば、中国人民解放軍も言うだろう。


 「わしらも朝鮮では血をながしとるんじゃけんのう。発言権はある」と(さすがに広島弁は使わないだろうが)。「抗美援朝戦争」に「中国義勇軍」は20万人を最前線に投入、後方には100万人体制を敷いて、米軍と激突した。毛沢東の長男岸英はナパーム弾の攻撃で丸焦げになって、戦死。息子の死を聞いた毛沢東は電報文を握り締めながら慟哭した。参戦の決断をしたのは指導部の中では毛沢東と周恩来のふたりだけである。理由は「いかなる犠牲を払っても、国境の守りを固める」ためだった。ブッシュ政権による「北朝鮮処分」のささやき、解放軍の黙認なしにそれは成功しないだろう。

<<北朝鮮司令部はなぜ中朝国境に建設されたのか>>

 一部の報道では北はすでに中朝国境の山岳部の地下に秘密軍事司令部を建設したという。こうすることで北は中国領に対する誤爆を警戒する米軍をけん制することができる。中国本土への越境空爆は直ちに米中関係、特に人民解放軍の憤激を高めるだろう。そのため、米軍は中国との関係上、国境への攻撃には慎重にならざるを得ないのである。事実、朝鮮戦争当時トルーマン大統領が最も頭を悩ませたテーマがこれだった。彼は中朝軍の兵站である東北地方〔満州
〕に対する原爆使用を主張したマッカーサー司令官を解任した。朝鮮の「代理戦争」が両大国の正面衝突に変わることをトルーマンは恐れた。こうした理由から金正日は国境に最高司令部を置いて、米軍をけん制しているのである。

<<訪朝は実現するのか>>

 胡錦涛が対米協調を旗印にして、北朝鮮処分に踏み切れるのかどうか、このカギは彼が解放軍を全面的に掌握できるかどうかにある。なぜ胡訪朝がのびのびになっているのかの理由はふたつある。ひとつは北の内政上の理由だ。

 北朝鮮内部で6カ国協議に復帰し、核の放棄を行うという対米妥協の選択に関して結論がでていない、というより、結論を出せない状況が生まれている可能性があること、これでは胡は訪問できない。おみやげがないからだ。最低でも北の6カ国協議復帰がない限り、中国の最高指導者が「朝貢国」を訪れることはできない。

 また、中国も解放軍を含む政権の内部で、「中朝条約の棚上げ」までのコンセンサスは生まれていない可能性がある。それでは単に行きましたというだけの結果になりかねない。それでは事実上北の譲歩は期待できない。

 逆に訪問が実現した場合、同行メンバーに解放軍要人が含まれる可能性は高い.ここでは中国の党政府軍中央の一致した意向が金正日に伝えられるだろう。

 これまで散々「中国だけが北朝鮮を協議の場に引き出せる」「北朝鮮の核に対して影響力をもつのはやはり中国だ」と、北京は北朝鮮カードを対米対日外交の道具に利用してきた。中国が米国か北朝鮮か、どっちの側につくのか。選択の時は確実に近づいている。


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掲載日:3月22日(火)17:2:42
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 50 平成 17 年 3 月 14 日 》
■戦略情報研究所第3回講演会--お誘い合わせの上ご参加下さい
日時:3月22日(火)18:30〜   会場:友愛会館 1階A会議室
〒105-0014 東京都港区芝2-20-12 TEL 03-3453-5381
(都営地下鉄三田線芝公園駅A1出口徒歩2分、JR田町駅徒歩10分)
講師:洪ヒョン・元駐日韓国公使
テーマ:北朝鮮の対日工作活動について
参加費:2000円

■米中接近と北朝鮮処分、そして日本
             青木直人(ジャーナリスト)
 開催中の中国・全人代において李筆星外相の口から、現在、米国との間で胡錦涛国家主席の訪米について時期を協議中であることが明らかにされた。
 両国首脳の相互訪問は2002年2月のブッシュ米国大統領の北京訪問が最後なので、今回は中国首脳がワシントンを訪問する番になる。
 同時にブッシュ大統領もまた「年内の中国訪問」を計画しているので、そうなると10-11月胡主席訪米、11-12月ブッシュ訪中の可能性が高くなり そうである。
 この米中両首脳のクロス訪問は北朝鮮情勢を見る際に決定的なターニングポイントになるだろう。なぜならここで、両国による「北朝鮮処分」が具体的な テーマになるはずだからである。中国からのシグナルに注意してほしい。
 今回の全人代で正式に江沢民国家軍事委員会主席が辞任し、胡錦涛がそのポストに就任した。つまり胡訪米とは「共産党総書記」「国家主席」「軍事委員会 主席」の肩書きをもつ最高実力者の米国首脳との話し合いを意味する。
 現在米中間には経済貿易問題をのぞけば、緊急の外交案件は台湾問題と北朝鮮の核問題しかない。
 このテーマをバーターにすることになったきっかけは2002年10月の江沢民前国家主席のテキサス・クロフォードでのブッシュ大統領の私宅での会談か らである。だがここではまだ中国側の姿勢は明確に打ち出されてはいない。
 「北朝鮮の核保有に反対」「関係各国が粘り強い話し合いを通じて妥結」という一般的なものに終始している。その間米国は一貫して台湾独立に反対であると明言を繰り返した。もちろん中国向けのシグナルである。
 30年前、中国は、実力者トウ小平の訪米と数ヶ月後のベトナム侵攻によって、「72年体制」を実現させた。中国のベトナム攻撃はそれまで中ソ再接近を 懐疑の目で見つめていた米国の反共反ソ主義者たちを一気に中国シンパに変えたのである。今年後半、ワシントンと北京で語られるのは新たな「72年体制」 である。
 このままなら日本の役割は金正日なき新生朝鮮の経済再建に必要な援助だけということになる。拉致日本人の奪還を求める対北朝鮮経済制裁はそれに抗する 前哨戦である。
※このメールマガジンは会員用のメールマガジン「おほやけ」のエッセンスをお送りするものです。
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掲載日:3月22日(火)17:2:1
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 49 平成 17 年 3 月 12 日 》
■戦略情報研究所第3回講演会--お誘い合わせの上ご参加下さい
日時:3月22日(火)18:30〜   会場:友愛会館 1階A会議室
〒105-0014 東京都港区芝2-20-12 TEL 03-3453-5381
(都営地下鉄三田線芝公園駅A1出口徒歩2分、JR田町駅徒歩10分)
講師:洪ヒョン・元駐日韓国公使
テーマ:北朝鮮の対日工作活動について
参加費:2000円

■ やはり王部長の北朝鮮説得は失敗だった! 
                                                     青木直人(ジャーナリスト)

 前回の「おほやけ」で、2月の中国共産党王家瑞対外連絡部部長の北朝鮮訪問を取り上げ、そのなかで人民日報に「いまだに社説も論評も掲載されていな い」(2月27日時点)と指摘した。が、王の帰国から1週間後の28日になってやっと「駆け引きの中に再開への胎動」とタイトルのついた論評文が登場し た。前回の記事の補足説明もかねて再びこのテーマに触れたい。
 評論を読んでみても、中国の金正日説得が不調に終わったことは間違いない。記事は最初に「そもそもなぜ昨年9月に予定されていた第四回6カ国協議が実現しなかったのか」として、「米国大統領選挙の結果とブッシュ政権の対朝鮮核問題政策が大きなけん制要素になった」のだと説明する。
 具体的にはブッシュ大統領の就任演説での強硬姿勢とライス国務長官の上院公聴会(1月中旬)での朝鮮を名指した「圧制の拠点」発言が、朝鮮にとって「共存」政策をとらないものと受け止められたが朝鮮外務省の声明の背景にあったという。いいわけがましいほど北朝鮮の公式声明の内容が羅列される。
 それでいて今後の見投しについては「危機は機会を含んでいる」として、大事なことは関係各国が粘り強く誠実に対話することだとだけが強調されるのであ る。
 論評はこれだけである。北朝鮮がいつ、どういう形で6カ国協議に復帰するのか、道筋はどこにも示唆されていないし、北朝鮮が中国の説得に応じて、協議 再開にゴーサインを出した兆候すらない。ここにあるのは米国と6カ国協議への評価の差なのである。中朝両国間の埋めようもない溝。
 成果なき王訪朝が論評を弁解がましく自家撞着に満ちたものにしているのだ。中国側は政府をこえて、はるかにレベルの高い党の特使として王部長をピョンヤンに派遣、胡総書記のメッセージを携えて、中国共産党の見解として金正日総書記に、「北朝鮮の核保有と開発の継続は米国や日本だけではなく、中国の安全にとってもマイナスである」と公式に通告している。(実際はこれ以上の激しい言葉で警告したようだ)今回のような踏み込んだ中国サイドの発言ははじめてである。
 中国は北と米国の綱引きの中にいる。だが、洞ヶ峠はいつまでも続かない。台湾独立にノーといい続けてきたブッシュは中国首脳が誓約した「北の核保有反対」との国際公約の手形を切れ、と強硬に突きつけてくるだろうし、そもそも江沢民も胡錦涛も世界に向けて『中国は北の核を許さない』と公式に発言しているからだ。
 だが、なぜか今回の論評には北の核が中国にとって危険なものとなったというキーワードは見当たらない。中国の「大国外交」が喧伝されるばかりである。
これはまだ今の段階では北を協議に引き出すことに力点がおかれているため、刺激することを避けていること、そして、将来の事態について、大枠で米国と共同しての金排除の戦略的シナリオを内に秘めつつも、(中国外交にとって、米国を敵に回す選択肢は存在しない)、具体的な戦術レベルの転換についてはいまだ、党内のコンセンサスが図られていないことを暗示させる。
 中国の対北朝鮮のスタンスを図る次のバロメーターは党要人の口から公然と北の核に関して、いつどういう内容の批判が飛び出すのか、である。
 米中両国によるパワーゲームが進行している。日本人は眼を見開いて現実を直視すべきである。事態の進行は必ずしも日本にとってプラスとはいえない。もう自前の戦略を論じなければならない時期である。
※このメールマガジンは通常会員用のメールマガジン「おほやけ」のエッセンスをお送りするものですが、今号は3月5日付の「おほやけ」42号をそのまま掲載しています。
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掲載日:3月5日(土)18:42:37
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 48 平成 17 年 3 月 1 日 》
■人民日報から王家瑞訪朝をよむ

               青木直人(ジャーナリスト)
 北朝鮮の核保有宣言と6カ国協議からの無期限中断をうけて、2月19日から4日間、急遽中国共産党の王家瑞対外連絡部部長がピョンヤンを訪問して、金 正日労働党総書記らと会見した。27日現在両国のメディアは会談内容の詳細をあきらかにしていない。だが表にでた公式な報道をチェックしてみれば、ほぼなにが議題とされ、協議の成功不成功も推測できる。
 結論からいうと、中国からみて、王訪朝は成功とは言えないものだった。
 そのようにみる理由は人民日報(国内版)がこの件をどう報道しているのか、による。会談は中国を満足させるものではなかった。
 訪朝の目的は北を6カ国協議に復帰させ、協議を通じて、北の核放棄を実現することにある。大国中国の『責任ある外交』も演出したい。だが金総書記が口にしたのは、6カ国協議に対する一般論であり、なんら協議復帰について積極的な発言を行っていない。また報道は「近年両国間で経済貿易関係が進展した」 と、中国の北朝鮮に対する援助と投資には言及しているが、政治外交については言及はないのである。それとは逆に気になる文言がある。
 『現在の国際情勢からみて、半島の非核化は朝鮮人民の利益に最もかなっており、中国の安全の利益にもかなっている』。
 安全の利益とは直接的には北核保有と開発が米朝対決のエスカレーターとなって、東北の安全を脅かす事態を想定している。こうした現状認識は北朝鮮の瀬 戸際外交の立場を支持するものではない。
 王の北朝鮮訪問と同じ19日、日米政府当局間で「2プラス2」の協議が行
われ、中国の北朝鮮説得への高い期待と台湾防衛が確認された。「台湾防衛」に幻惑されてはいけない。日米両国は陳水偏政権が求める台湾の独立を支持したことは一度もない。守るのは「独立なき台湾」の現状である。

 2月24日、陳水偏・少数与党政権は第三政党親民党との間で国名と憲法を改正しないことを約して、連合工作に踏み出し、「反独立」に大きく舵を切った。米中による北朝鮮処分と台湾独立の阻止。水位はますます増しつつある。

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掲載日:2月28日(月)10:49:9
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 47 平成 17 年 2 月 27 日 》
■欠落している「再発防止」への取り組み

                            真鍋貞樹(戦略情報研究所専務)
 北朝鮮の金正日が、拉致を認めたものの、拉致をやめた、とは明確に語っていない。拉致は北朝鮮だけが行なう犯罪ではないし、北朝鮮も必要によってはこ れからも続けていくであろう。故に、今後も拉致はあり得る、と考えておくべきだ。
 そのように想定した場合、現在の国会や政府などでの議論は、拉致問題の解決の議論は多くされているが、「再発防止」という観点からの議論がほとんど聞 こえてこない。拉致と言う犯罪はもう過去の話であり、将来は発生する可能性はない、との認識を持っているように見える。官僚による不祥事や大事故などについては、発生直後から「二度と悲劇を繰り返さない」といった関係者の発言が繰り返されるのと状況が大きく異なっている。これは、依然として拉致問題の根幹部分である「法の想定を超えた犯罪」への対処が全くなされていないことの証明だ。この「法の想定を超えた犯罪」に対処する、という観点からの法整備の議論が、実はほとんど欠落しているのだ。欠落している限り、こうした犯罪は繰り返され、そして悲劇が繰り返されていく。

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掲載日:2月28日(月)10:48:26
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 46 平成 17 年 2 月 26 日 》
■北朝鮮2月10日外務省声明に見る瀬戸際外交・変則体制の最終状況

                 荒木和博(戦略情報研究所代表)
 去る2月10日、北朝鮮は外務省スポークスマン声明をもって6カ国協議の無期限延期と、核兵器保有を宣言した。そしてそれから11日後の2月21日、金正日は訪朝した王家瑞・中国共産党対外連絡部長に「条件が整えば、いつでも6カ国協議に応じる」「6カ国協議に反対したことはなく、協議成功のためあらゆる努力を傾けた」と語った。6者協議参加問題という、北朝鮮にとって極めて重要な問題でブレが起きていることは、中国の圧力が従来に増して強くなっていることに加え、金日成死後10年余にわたって続いた北朝鮮の瀬戸際外交と、変則体制の総決算が近づいている象徴とも言える。
 金正日は父金日成を死に至らしめ(その状況はまだ不明な点があるが、金正日との葛藤が金日成の死に深く関係していることだけは間違いない)、主席にも就任せず、総書記就任も異常な「推戴」という形をとり、跛行的国家運営を行ってきた。もっとはっきり言えば国家運営自体をしてこなかったという方が正しいかも知れない。
 父親の死後10年余りの間で、金正日にとって最も輝かしい時期は2000年6月13日から平壌で行われた金大中・韓国大統領との首脳会談だったろう。これをきっかけとして、金正日は米クリントン政権との結びつきを強めていく。しかし、11月の大統領選挙で共和党が勝利したため、金正日の思惑は完全に外れた。さらにブッシュは、2002年1月29日、一般教書演説で、北朝鮮、イラン、イラクの三国を「悪の枢軸」と名指しした。この強硬姿勢は北朝鮮を日本の側に追いやった。北朝鮮側は日本との国交正常化を進めることで援助を獲得し、なおかつ米国を牽制できると考えたのだ。
 ところが、ここで北朝鮮は拉致問題というハードルにぶつかる。日本側から「拉致を認めなければ日朝国交正常化交渉は進められない」と言われたため、拉致を認めたようだが、逆に日本では世論が強硬になり、政府も引けない状態になる。おそらく金日成が生きていれば、拉致自体は否定しつつ、第十八富士山丸事件の紅粉船長と栗浦機関長のように口を封じた上で第三国に出すなどの手を打って玉虫色の解決を図ったろう。しかし、金正日にはその手腕はなかった。
 2003年8月からは日米中露と南北朝鮮の6者協議が開始された。このような中で2月10日の声明が出たのだが、これはただでさえ北朝鮮を持て余している中国に北朝鮮への支援を止める口実を作る。中国は日米の要求に応える形で王家瑞を送ったが、おそらくはかなり厳しく恫喝したのだろう。対外連絡部長に恫喝されて方針を変えてしまった金正日を取り巻きはどう見るだろうか。
 この十年余の流れは北朝鮮が確実に袋小路に入っていることを証明するものと言えよう。
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掲載日:2月22日(火)21:32:17
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 45 平成 17 年 2 月 21 日 》
■戦略情報研究所第3回講演会のお知らせ
 以下の要領で第3回の講演会を行います。お誘い合わせの上ご参加下さい。
日時:3月22日(火)18:30〜
会場:友愛会館 1階A会議室
〒105-0014 東京都港区芝2-20-12 TEL 03-3453-5381
(都営地下鉄三田線芝公園駅A1出口徒歩2分、JR田町駅徒歩10分)
講師:洪ヒョン(元駐日韓国公使・早稲田大学現代韓国研究所客員研究員」
テーマ:北朝鮮の対日工作活動について
参加費:2000円(会員の方はお送りしてある参加証で参加できます。これから入会を希望される方は下記にメールでお申し込み下さい)
講師略歴
1948.2 ソウル出身
1970.3 陸軍士官学校卒
1970.4 陸軍服務 国防部(情報分析・政策・戦略研究)
1890.10 転役 外務部・駐日韓国大使館勤務 一等書記官・参事官・公使
2003.9 退職
2004.4 早稲田大学現代韓国研究所客員研究員
 講師は日本とのつながりも深く、現在の韓国の左傾化を憂慮している方です。ぜひご参加下さい。
(お名前のヒョンは「螢」の字の「虫」を「火」にかえた字です)
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掲載日:2月3日(木)15:29:15
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 44 平成 17 年 1 月 30 日 》
■Amour de la patrieとは国を大切にすること
             福井義高(青山学院大学助教授・戦略情報研究所客員研究員)
 教育基本法改正において、「愛国心」をどのように表現するかが決まらず、今国会での成立は絶望的となっている。自民党が「国を愛する」という常識的表現を主張するのに対し、公明党は「国を大切にする」という表現を求めているという。なんでも、国を愛するというのは戦前の国家主義的発想につながるそうである。いかにも、世界平和に邁進される名誉会長の御意向に沿った主張ではある。
 それに対して、保守派というか健全な常識人は、憲法に準ずる基本法のなかに国を愛するという表現を入れることが問題となること自体、戦後日本の異常さを表していると反発しており、実際、「国を愛する」ことに対する反対派は、国民の間では親中派と同じくらい少数派であろう(むしろ、反対派=親中派か)。

 しかし、国を大切にするという表現のほうが、国語の歴史を見れば、愛国心(として現在了解されている概念)をより適切に表しているとも言えるのだ。
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※戦略情報研究所代表の荒木の新著『拉致 異常な国家の本質』が本日から書店に並びます(地域・店舗によって配本の日程は異るようです)。拉致をし続け
た異常な国北朝鮮と、拉致をされ続けた異常な国日本の本質について論じたものです。ぜひご一読下さい。なお、戦略情報研究所の賛助会員の方には著者より贈呈させていただきます。
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掲載日:2月3日(木)15:28:34
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 43 平成 17 年 1 月 29 日 》
■無謬性の神話との戦い
                 真鍋貞樹(戦略情報研究所専務)
 1月16日に特定失踪者問題調査会が発表した2人の人物が、全く別人だったことが判明し、その発表に至る経過あるいはその発表の根拠などに様々な疑念が向けられた。
 その代表的な疑念の声が、2人の写真を簡易鑑定した橋本助教授にも向けられている。ここで我々として反批判すべき批判の対象は、「科学に誤りがあってはならない。したがって、橋本助教授が科学者である限りその判断に誤りがあってはならない」という見方だ。この批判は、「科学的な分析は絶対的なものでなくてはならず、無謬性(科学に誤りはない)を持たなくてはならない」という一種の神話によるものだ。
 我々は、こうした「科学の無謬性の神話」を排し、科学には可謬性(科学にも誤りがある)という立場を採用している。むしろ、この可謬性の存在こそが科学の発展を生み出した原動力だとの見方だ。この可謬性への認識を持つが故に、他者の批判と反証を許容し、そして相互批判と試行錯誤によって新たな真実の発見に結びつくという立場だ。これは言うまでも無く、近代における科学認識の方法論として最も基本的な態度だ。
 今回の簡易鑑定は、限られた手持ちのカードから、何が真実かを推測した作業の範囲内のものだ。したがって、「誤り」の可能性もあるし、「正しい」との可能性もある。我々が今後できることで、やらなくてはならない作業は、この推測の根拠をより正確なものとすることだし、そして、推測の方法論をより精緻化することだ。つまり、より情報源に接近して、情報の正確さを把握することと、方法論的に様々な角度から点検作業を行なうことだ。しかしながら、こうした精緻化を行なったとしても可謬性を常に伴うのだ。
 こうした可謬性のある作業を、我々に代わり「無謬性の神話」に固まった日本政府が行なうような素振りは現在のところ見え無い。「誤り」を犯したくない日本政府が行なわないとすれば、我々のような民間団体が行なうしかない。もし、我々がこうした作業を「誤り」として、止めてしまうことがあったとすれば、それこそ拉致被害者の切捨てを意味してしまうのだ。
※このメールマガジンは会員用のメールマガジン「おほやけ」のエッセンスをお送りするものです。
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掲載日:1月16日(日)16:52:45
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 40 平成 17 年 1 月 12 日 》
■ライス新国務長官と北朝鮮処分
      青木直人(ジャーナリスト)
 いよいよ第二期ブッシュ政権が船出する。注目の人事は国務長官の異動で、ライス大統領補佐官がパウエル氏に代わって、そのポストに就任することになった。彼女が対北朝鮮政策において「強硬派」であり、中国との関係でも「戦
略的ライバル」論者であると見られていることから、一部にこれまでの6カ国協議を通じた話し合い路線が変更されるのでは、との観測もある。だがポイントはブッシュ政権自体の戦略に変更が見られるのかどうかだろう。
 1982年7月、ニューヨークでキッシンジャー・アソシエイツが産声をあげた。国際的ビッグビジネスの海外進出をサポートすることを目的に誕生したこのコンサルタントの会長はヘンリー・キッシンジャー米国元国務長官、社長は
ローレンス・イーグルバーガー元国務次官だった。注目すべきは副会長の職についたのがブレント・スコウクロフト元国家安全保障補佐官だったことで、のちに彼に見出されて、政界入りしたのが、ライス新国務長官だった。
 ライスは基本的に戦略論でいうと、キッシンジャー・スコウクロフトのラインに属する政治家である。彼女の国務長官就任で、中国を抱きこみ、北朝鮮に対して経済制裁をかけ、北の内部崩壊(テロ、暗殺、クーデターという硝煙な
き戦争)を誘うとの基本戦略の変更は考えられない。変化があるとすれば中国をさらに米国の北朝鮮戦略に巻き込むための戦術的対応の変化であって、戦略そのものの修正ではない。
 ブッシュの変身にも注目すべきだろう。
 彼は2002年2月21日に中国を訪問した。この日は30年前にニクソンが北京空港に降り立った同じ日だった。意味を解読すれば、そうした演出を凝らすことで、ニクソンと周恩来が合意した「上海コミュニケ」、つまり「72年体制
」をブッシュ政権も遵守するというシグナルが北京に対して送られたのである。
 昨年の大統領選挙の際の共和党の選挙向けの綱領。どこを見てもライスの造語であった「中国は戦略的競争相手」との文言はすでにどこにも見当たらない。変わって登場したのが「建設的協力関係」だった。
 ブッシュは変身し、ぶれていない。米中両大国の北朝鮮・金正日排除の動きは水位を増している。6カ国協議は今年も追求されるが、結局のところ、それはここまで話し合いの努力をしているとのアリバイ工作にすぎない。中国を抱
き込むための儀式なのである。米国は台湾を捨てた。次は中国が北を処分する番なのである。胡錦涛国家主席がいつ訪米するのか。その時期に注目すべきである。
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掲載日:1月9日(日)14:25:30
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 39 平成 16 年 12 月 31 日 》
■ 韓国の国会は12月29日の本会議で、『日帝強占下の親日反民族行為の真相
究明に関する特別法』改正案を可決した。野党であるハンナラ党も自主投票となり、約半数が賛成した。この法律は去る3月に制定、9月から施行されていたが、改正法は、日本の統治に協力した韓国人の調査対象を大幅に拡大する一
方、日本との関係を考慮し、法律名から「親日」を削っている。
 それにしても、日本の支配が終わったのはもう60年近く前なのだ。今になってこんなことをやるのは正気の沙汰ではない。一般の日本人は「韓国人はなんと強い反日感情を持っているのだろうか」と思うに違いない。
 しかし、ヨン様ブームで韓国を訪れる日本人で「反日」に接することのできる人は多くない。また、反日教育を受けてきた韓国人が日本に留学したり仕事で来たりして教わっていることがあまりにも違っているため悩んでしまうこと
も少なくない。このギャップについて、本年の最後に考えてみたい。
◎北朝鮮の情報・謀略戦---韓国の保守派叩き・日韓離反策
 韓国では「民族派」というのは左翼である。保守派は北朝鮮と対決して同盟国である米国と(そして控えめに日本とも)結ぶべきだと主張するのだから「国際派」ということになる。したがって、北朝鮮からは繰り返し「同じ民族で
ある私たちに敵対して、アメリカ帝国主義や、かつて植民地支配で民族を苦しめた日本と手を結ぶのか」という批判が韓国にぶつけられ、韓国の中の左翼・親北勢力もこの論法で保守派を攻撃するのである。

 今回の法律もそのために作られた法律である。韓国人は情緒的な民族であり「わが民族」という言葉には弱い。同じ民族でもイデオロギーが違えば敵であるという発想はなかなかできない。そして後に述べるような理由があり、保
守派は自分たちを守るために「われわれの方がより植民地支配と闘った」というような論法を展開せざるを得ず、せいぜい、「日本の支配は韓国の近代化にプラスになった」という程度である。これでは最初から両手を縛ってボクシン
グをやるようなものだ。
 北朝鮮からすれば「民族」を使った揺さぶりが韓国内では保守派攻撃の武器になり、こういう法律ができたと報道されれば日本の中でも嫌韓感情が高まるから、国際的には日韓(米韓も同様だが)離間という効果もある。一石二鳥で
ある。
 しかし、これはあくまで政治の場やマスコミでの話で、韓国人が実感として日本の「虐政」を体験しているわけではない。したがって、根が深いように見えて、実は以外と皮相的なものなのだ。
 日韓併合は、日本でも韓国でも最初から悪いことと決めつけられてきた。しかし、これは全くの誤解、というより捏造である。当時は朝鮮は間違いなく日本の一部であり、積極的か消極的かの違いはあったにせよ、大多数の朝
鮮人はそれを認めていたのである。
◎同化が生み出した反日
 ところが、その事実が逆に後の「反日」を生み出すこととなる。日本が敗戦で朝鮮から出て行くことによって、朝鮮人は自らのアイデンティティーをどこに求めるかという問題に直面することになった。
 そのとき、日本の支配に抵抗していたなら、あるいは日本の支配が苛烈なものだったならかえって動揺は少なかったろう。しかし、問題は大多数が同化していたことにあった。内地の人間より「聖戦完遂」に邁進していた人も少なく
なかったのだ。阿諛迎合してやっていた人間もいたろうが、そうではなくて、本気で考えていた人間がいたことは特攻隊に志願して戦死した人が何人もいることからもあきらかだ。
 そのような状態からすれば日本の敗戦の後、朝鮮の人々にとって選択肢は自分が日本人であると言って「敗戦国民」の立場を甘受するか、日本があまりにも苛烈な支配を行ったので立ち上がることができなかったという虚構を作り上
げるか二つに一つしかなかったのだ。
 しかし、この人たちも建前は「日本の支配がいかにひどかったか」を強調せざるを得なかった。そして、その教育を受けた世代はこの建前、虚構を事実だと思い込んでしまったのだ。だから、生活実感を持っている世代が退いて、観
念だけで当時を理解する世代が大部分になったことによって、かえって反日を煽ることができるようになったのである。
 もし、日本が戦争に負けていなければ朝鮮は独立していなかったろう。そして昭和21年からは国会議員の選挙権も与えられることになっていたのだから、国会議員の四分の一はコリアンということになったわけだ。今ごろペ・ヨン
ジュンが選挙でトップ当選などということが起きていたかも知れない(そう考えると、逆に日本にとって日韓併合は良かったのかということになるが)。いずれにしても韓国では独立運動をした人も愛国者かも知れないが、日本と一緒
になることで近代化をする道を選択した人も愛国者だったと言えよう。
◎日本が強くなることが韓国の反日を抑え、北朝鮮の謀略を粉砕する
 日韓関係を良くする最大の方法は日本が強くなることである。国際的な発言権を強め、軍事的にもある程度のアピールをするようになれば韓国の反日は嘘のように消えていくだろう。もともと朝鮮半島は周辺が大国で囲まれ、そのど
こかとくっついていなければ生存が難しかった。この状況はいまも変わっていない。もちろん、朝鮮半島に強固な統一国家ができれば、それが多少日本に敵対的でも東アジア全体の安定には大きく寄与し、結果的には日本にもプラスに
なるのだが、歴史を振り返れば内部の争いに周辺国を巻き込むのが常だから、安定した国家ができるのは今後も難しいだろう。
 ともかく日本人も韓国人も「日韓併合は植民地支配で悪である」という前提観念から抜け出るべきである。日本はもっと強い立場にたって、韓国に対し北朝鮮と手を結ぶのか、日本と手を結ぶのかとと迫るべきだ。韓国の保守派に今
日韓併合を評価できる余力はないが、「日本についた方が得だ」というのは言いやすい。そこに誘導していくのが日本の国益にもプラスになるだろう。冷静に考えれば韓国人の大半は北朝鮮よりは日本を選択する。そしてそれは北朝鮮
が長年にわたり膨大なエネルギーを投入してきた対南工作の核心部分を粉砕することにつながるのである。

 来年は「特別法」でやり玉にあげられた韓国人が、それゆえに尊敬されるという状況を作り出したいものだ。
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戦略情報研究所設立から8カ月が経過しました。いよいよ2年目に入ります。
まだまだ活動は一歩を踏み出しただけですが、17年は発展の年とすべくがんばります。今後ともよろしくお願い申し上げます。
※このメールマガジンは会員用のメールマガジン「おほやけ」のエッセンスをお送りするものです。
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掲載日:12月20日(月)7:56:3
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 38 平成 16 年 12 月 18 日 》
■■ディスインフォメーションと北朝鮮
         荒木和博(戦略情報研究所代表)
 ディスインフォメーション(逆情報・偽情報)は国家間の謀略に留まらず、様々なところで利用されている。うまく行けば極めて低コストで大きな効果をあげることができるものである。
 特に北朝鮮では、「嘘をついてはいけない」という感覚がもともそ存在しないのみならず、「いかに帝国主義者どもを騙したか」ということが評価の対象になるため、何の制限もなくこれが用いられている。
 平成9(1997)年、横田めぐみさんの拉致が報道されてから、拉致に関しても様々なディスインフォメーションが流されてきた。たとえば、初期の頃は、「横田めぐみは平壌にいるが、もう完全に金日成主義者になってしまっている
」というのがあった。公式のルートで発表するわけではないから、政府間交渉の場で出せば当然否定する。しかし、それだけに逆に信憑性をもって語られる。「実はここだけの話だが…」という情報は一番良く広がるのだ。若干性質は
異るが、まだ北朝鮮が拉致を認める前、救う会にかかってきた匿名の電話で「俺は横田めぐみを殺して山に埋めた男だよ。北朝鮮のせいにしてくれてありがとう」などというものもあった。この情報もこちらが「ひょっとして」と思っ
て動いていれば、その間救出運動にブレーキをかけることもできたはずだ。これも一種のディスインフォメーションである。
 北朝鮮の情報ルートというのは極めて限られている。したがって日本側に政治家だろうとNGOだろうと官僚だろうとジャーナリストだろうと、スピーカーの役割をする人間を作るのは簡単だ。「あなただけに情報を教えるから」と
言われれば、多くの人は自分が特別の人間になったような気がして、その情報を信じ込むのである。もちろん、その情報は多くの場合全てが嘘ということはなく、真実の中に偽情報が潜り込まされているはずだ。
 私は大学の授業で学生に次のように言っている。「北朝鮮の公式文献などを読むときの原則は、『北朝鮮が言うことはすべて嘘だ』と思って読むことだ。そして『なぜ北朝鮮はこういう嘘をつくのだろう』と考えると真実に近づくこ
とができる」--公式文献のみならず、北朝鮮から流れてくる情報は全体が謀略だと考え、なぜそうしてきたかを考えるべきである(もっとも、わが政府のように、わざと「裏を読む」「真意を確かめる」などと言って、分かっているこ
とを分からないふりして先送りしようとするのも問題なのだが)。
 さて、経済制裁にからんで今北朝鮮側は次のようなディスインフォメーションを流している。その真意はどこにあるかお考えいただきたい。
 「日本だけで経済制裁をやっても中国や韓国が北朝鮮を支援してしまうから効き目がない」
 「日本が経済制裁をやれば北朝鮮が反発して戦争になる」
 ちなみに韓国政府は北朝鮮を支援する意味なのか、最近次のようなディスインフォメーションを流している。
 「北朝鮮はやがて崩壊する。韓国政府も日本人の被害者を救おうとして動いているが、今経済制裁をすれば北朝鮮が反発して問題解決が先送りになる」
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掲載日:12月6日(月)22:43:53
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 37 平成 16 年 12 月 6 日 》
■核開発を公言する北朝鮮
         宝田 寿哉(拓殖大学国際協力学研究科安全保障専攻)
 六カ国協議が実質的な成果を得られていないまま停滞する一方で、ここ2ヶ月ほど北朝鮮は、核兵器の開発・保有に関する発言を繰り返し述べている。
 実は、北朝鮮は既に2003年10月に、外務省報道官が核抑止力を保有する方向で使用済み核燃料棒の用途を変更した、との談話を発表していた。そして今年9月27日に北朝鮮の崔守憲外務次官は、国連総会の演説の中で「核は敵視政策を取る米国に対する自衛手段であり、核抑止力を保有する以外の選択肢はない」との重大な発言をした。また崔次官はその後AP通信記者に使用済み核燃料棒8000本を兵器化した、とも述べた。
 北朝鮮はこのように核兵器の開発を明白に宣言する一方、関係諸国は、政府もマスメディアも含めて、そうした事実に注意を払おうとしていない、あるい は意図的にこうした北朝鮮の発言を黙殺しようとしている。その一方で北朝鮮 は『労働新聞』紙上において、「核抑止力」という言葉を使い、その後も核問題について度々言及している。
 しかしながら、何故か日本・韓国の政府・メディアでは、こうした北朝鮮の核に関する発言を報道していない。あるいはそれに触れたメディアがあったかもしれないが、少なくとも、政府・メディアがそれに注目した様子は伺われな
い。これは六カ国協議という枠組みを崩壊させないために、北朝鮮の核開発に目をつぶり、敢えてその現実を見ようとしていないということではないだろうか。しかしながら、関係諸国の願望とは別に、北朝鮮は核兵器開発・保有を着
々と推進しているとみるべきである。また、北朝鮮は既に核兵器を持っているか持っていないかという曖昧な立場を脱し、既に自らその開発・保有を宣言しているという重大な事実を認識する必要がある。

 このように状況が変化した今日、北朝鮮の核問題の解決法は、今まで六カ国協議の中で追及された北朝鮮の核兵器保有阻止ということにあるのではなく、北朝鮮の核兵器保有を前提とした別の解決策を模索するところにきているとい
える。その解決策としては、まず、北朝鮮の現体制は核兵器を絶対に放棄しないのであるから、北朝鮮の内部崩壊を誘い、体制瓦解を経た上で、核兵器の除去を目指すといったもの、あるいは、北朝鮮の体制・核保有を認めた上で、拉
致・麻薬など核以外の他の諸懸案の解決を目指すといったものが考えられるだろう。
 前者の場合は実現の不確実性、場合によっては戦争の可能性が高まることが懸念され、そして後者の場合はNPT体制の溶解が懸念される。いずれも困難はつきまとうが、ただ北朝鮮のさらなる核兵器開発を許す一方で、他の諸懸案の
解決が一向にはかどらない現状よりは、まだ有効な選択肢といえよう。現実を直視した上で、北朝鮮の核問題に対し新たなアプローチで臨むことが、日本など関係諸国に求められる。
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掲載日:12月2日(木)8:7:33
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 36 平成 16 年 12 月 1 日 》
■金正日の亡命:究極の選択と日本
      福井義高(青山学院大学助教授・戦略情報研究所客員研究員)
 金正日と父金日成の確執については多くが語られてきた。いや、確執という表現より、むしろ憎悪といった方がよいかもしれない。1994年の金日成の急死に金正日が関わっていたのではないかという説は根強いし、その後の権力掌握に時間がかかったことを見ても、金王朝内部において、金正日支持で意思統一が図られていた訳ではなく、暗闘があったことは確実である。
 しかし、金正日の出生から遡って検討してみると、実はもっと大きな秘密が隠されているのではないか。具体的に言えば、金正日が金日成の息子ではないと考えると、全ての辻褄が合うということである。
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掲載日:11月30日(火)16:14:20
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 35 平成 16 年 11 月 30 日 》
■「中国ODA廃止」の真実
      青木直人(ジャーナリスト)
 小泉首相の口から「中国ODA廃止」が飛び出した。先の町村外相の「卒業」発言に続くもので、外相によれば「2008年の北京五輪か10年の上海万博のころ」らしい。この発言をどう考えるのか。単純に援助廃止で結構とはならない。
 外務省がODA(経済援助)を広報するために2002年から発行している「ODAメルマガ」の最近号からこういう一文が付け加えられた。
「掲載されている意見は執筆者個人の意見であり、政府の立場を示すものではありません」
 これは9月24日の第51号に中国ODAについて投稿された記事が原因なのである。「対中国ODAについて世論や新聞媒体など報道に感化されてマイナスイメージがあった」が、中国での援助プロジェクトの関係者と交流したことで「戦後の賠償として対中ODAが開始されたことに鑑み」「国家としての贖罪意識から継続せざるをえないのだ」と再認識したのだというのである。筆者は教員で、外務省のODAモニターに参加しての感想だった。大うそである。ここに書かれていることは全くの事実無根なのである。
 そもそもODAは戦争賠償金ではない。72年の日中国交正常化の際に中国政府は賠償放棄を宣言している。日本の外務省も当事者としてそうした事実は熟知しているはずである。当然賠償金でもない対中ODAを「国家としての贖罪意識から継続」する必要などないのである。なぜODAは外交カードとして活用するものであると常々いい続けている外務省の広報誌にこんなデタラメが掲載されるのか。私はそんな疑問をある総合雑誌で指摘した。編集部には賛同の声が多数届いた。一言で言うと、外務省ですらもう中国援助の理由付けができなくなっているということだろう。高成長を背景にして、宇宙開発に乗り出し、軍拡に邁進し、反日全開モードの中国になぜ支援するのか。
 北朝鮮の拉致問題に関連して、妥協を引き出すためにも、影響力をもつ中国に対して、日本からのODAをカードにすべきとの声が上がっている。正しい。やれば効果はある。だが、誰がそれをやるのか。今回の小泉発言が中国をけん
制するために行なわれた戦略的な発言なら救いもあるが、おそらくそうではない。
 日本政府も外務省も対中国ODA25年の総括を国民に対して行なうべきである。反省も総括もないままに、援助をやめますと言われても、それは援助にまつわる疑惑に封印をするだけの意味しかない。援助廃止と検証はセットであるべ
きだ。
 ただいずれにせよ、中国当局と国民はホンネではODAを賠償金と見ている。廃止で草の根の反発は必至である。外務省のHPにODAがいまも「贖罪」「賠償金」と表記さえていることの危うさを感じざるを得ない。こんな政府が北朝鮮交渉に中国ODAを使えるのかどうか。聞くだけ無駄である。
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掲載日:11月25日(木)13:57:50
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 34 平成 16 年 11 月 25 日 》
■平壌とソウルで何かが動いている
      荒木和博(戦略情報研究所代表)
 11月13日(現地時間)、盧武鉉韓国大統領は訪問先のロサンゼルスで行ったスピーチで次のように語っていた。
「北朝鮮は核とミサイルを外部の脅威から自分を守るための抑制手段だと主張している。一般的に北朝鮮の言葉を信じるのは難しいが、この問題に関しては北朝鮮の主張に一理ある側面がある」
 私は韓国のホテルでテレビのニュースを見ていてこの報道を聞き、一瞬わが耳を疑った。あまり良くない例えかもしれないが、これは町内会長が町内にある暴力団の事務所で拳銃や爆弾をため込んでいるのに「警察が厳しく取り締ま
っているし、他の組からの出入りもあるから、武装するのも一理がある」というのと同じことだからだ。
 大統領が北朝鮮の核・ミサイル開発を認めるというのは、韓国の国防の根幹を大統領が否定したことになる。さらにこれに続いて国防部長官、統一部長官から韓国軍の基本である「主敵概念」、つまり韓国軍の主たる敵を北朝鮮とす
るという考え方を削除するとの発言がなされた。
 また、日本でも報道されたが、10月26日には休戦ラインの鉄柵が何者かによって切断されているのが明らかになった。状況からして南から北に向かったものとみられるが、この事件について韓国国防部は「韓国民間人による越北」と言っている。しかし、これを信じる人間はほとんどいない。3重に強固な鉄柵が設けられ、その先は地雷原になっている休戦ラインを民間人が越えられるはずがないのである。これをやったのは明らかに北朝鮮の、それもかなり高度な
訓練を受けた工作員である。おそらく、何かの事情があって急に北朝鮮に戻らざるをえなくなったのだろう。 それでも「民間人」と韓国政府が固執するのは、やはり北朝鮮を刺激したくないからである。
 また、毎日新聞によれば10月13日、韓国国防省は日本海の韓国側水域に北朝鮮の潜水艦の疑いがある艦艇2隻が10日午前と午後、出現したとの情報を受け海軍司令部が出動命令を出したが、北朝鮮潜水艦の侵入の有無を確認できなかったと発表した。
 前述の休戦ラインを越えて北朝鮮に帰還した工作員にしても、例えばこの潜水艦で帰還するはずが、発見されてしまったために海上からの帰還ができなくなり、休戦ラインを越えたとも考えられるが、ある情報によればこの潜水艦か
らは間違いなく工作員が韓国に浸透しているとのこと。少なくとも潜水艦の有無を確認できなかったというのはウソだろう。
 この動きは何なのか、それを解く鍵の一つは間違いなく平壌にある。
 半年前、4月22日には中国国境に近い龍川で列車の爆破事件が起きた。これは明らかに金正日を狙った暗殺未遂である。そのちょうど一月後、5月22日には平壌の地下鉄で火災が起きたという未確認情報がある。さらに9月9日の建国記念日には中国国境の両江道で爆発事件が起きている。
 また、5月には呉克烈元総参謀長の息子が清津から船で脱出したとの情報がある。この船には偵察衛星に写った画像ではかなりの数の人が乗っていたとされ、「呉克烈本人も乗っているのではないか」とか、「呉克烈はこの船に乗り 、今は横須賀にいる」という情報まででている。これらは確認できたものでは ないが、呉克烈の息子が米国に亡命したことはほぼ間違いないと思われる。
 呉克烈は北朝鮮空軍の事実上の創始者とも言える人物で、若くして総参謀長になり、軍の改革にからんで追い落とされはしたものの、党の作戦部長という職責で、軍内の人望もあった。私は金正日の後で北朝鮮のリーダーになれる人
間は呉克烈か慈江道の書記である延享黙、あるいは金正日の義弟である張成沢あたりだろうと思っていたが、その呉克烈の、少なくとも息子が亡命したということは北朝鮮の体制が中枢も含めて末期症状にあることの証拠と言える。
 それを裏付けるように、11月に入ってから北朝鮮内部で金正日の肖像画を外しているとのニュースや、放送の中で金正日に着ける称号(?)が省略されているなどの情報が入っている。肖像画の話はまだどの程度の規模か確認されて
いないが、技術的な問題でないことは間違いない。金正日自身が個人崇拝のイメージを低減しようとして指示したとの説を述べる向きもあるが、今の金正日のリーダーシップからして、自らの個人崇拝に関わる要素を減らせば、それは
すなわち権力を失うことにつながる。仮に本人が指示をしたのだとしても、それは金正日が主体的に行ったものというより、金正日以外の誰かの意志にしたがって行ったと見た方が自然である。
 もう一つ、今回の日朝実務者協議で、北朝鮮側は結局日本側が納得できる「証拠」を出してこなかった。日本側が納得できなければ、当然経済制裁に至ることは理解した上である。2年前はせっぱ詰まった状態で金正日が決断して拉
致を認めた。今回は新たな決断はできなかった。私は政府認定者でも公開された特定失踪者でもない、別の失踪者本人を出してきて「自分の意志で行きました」と言わせ、色々なルートを使って、「政府認定者も生きているが帰りたく
ないと言っている」などの情報を流し、ごまかす作戦をとるものと思っていた。おそらく妥協できるだけのリーダーシップがなかったのだろう。
 それらの動きと、韓国政府のせっぱ詰まった動きを見たとき、朝鮮半島の南北に同期した何らかの動きがあると思わざるを得ないのである。それがどう出てくるかは分からない。
 日本政府は一刻も早く緊急時の対応を準備するべきである。クーデターやテロによる政権機能マヒ、中国の介入など、考えられるすべての事態に対応する準備が必要だと思う。この方針は個別的な問題としての対応は不可能であり、
日本が主導して東アジアの秩序を作るという大方針の下で、北朝鮮問題をいかに取り扱うかという視点で行われるべきである。すでに、日本にとっていかなる北朝鮮の新体制が必要かを考え、それに向かって民間も、政府も、そして政
治家も力を合わせるべきときがきている。その線上に核や収容所、難民問題と一括の問題として拉致の完全解決があると言える。
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掲載日:11月2日(火)8:7:42
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 33 平成 16 年 10 月 30 日 》
■踏み絵を迫られる中国・硝煙なき闘い・北朝鮮人権法
             青木直人(ジャーナリスト)
 米国大統領選挙直前、北朝鮮の国家元首・金永南最高人民会議常任委員長が中国を訪問した。直後に米国のパウエル国務長官が北京を訪れ、さらに二年ぶりに人民解放軍の梁光列総参謀長もワシントンでペンタゴン首脳と会見をもった。いずれもテーマのひとつは「6カ国会談」に対する北朝鮮の参加問題だった。
 この点では金永南の訪中にもかかわらず成果はなかった。実権をもたない形だけの「国家元首」である金委員長の北京訪問は単なるセレモニーに終始しただけで、中国首脳との間で確認されたのは「朝鮮半島の非核化実現のため、対話を通じた平和的解決に努力する」(胡錦濤中国総書記との会談後の報道)という一般的なものにすぎず、北がいつ、どういう形で6カ国協議に再び参加するのか、については一切合意されていない。これでは中国首脳の面子は丸つぶれである。結局のところ、北朝鮮は4月の金正日総書記の訪問時に約束された中国からの無償援助獲得とひきかえに、話し合いを「原則的に」リップサービスしただけなのである。彼らはなんの譲歩もしていない。
 かりに再選が実現した場合、ブッシュ政権は、中国に踏み絵をせまるべく強硬姿勢にスタンスを移すだろう。米国だけが一方的に台湾問題で譲歩するわけにはいかないからだ。これは外交的な取引なのだ。
 「北朝鮮人権法」が誕生した。東ドイツ崩壊をモデルにした難民流出による体制解体をねらうもので、米国はこれを中国の北朝鮮に対する外交的踏み絵にする。
 中国がやっきになっている中朝国境警備の強化や脱北者取締りは所詮対症療法にすぎない。国際世論の反発はエスカレートし、中朝の矛盾は確実に高まるだろう。
 96年、「クリントンの軍事戦略とシュミレーション・第二次朝鮮戦争」なる一冊の本が人民解放軍の軍事科学院外国軍事研究部会のアナリストたちよって書かれた。第一次朝鮮半島危機をベースにした有事のシナリオだが、その中に「米国は開戦にあたって国内のすべての政治犯の釈放を要求し、圧政下にある二千万の国民を解放するとピョンヤンに最後通告した」とある。「北朝鮮人権法」は硝煙なき宣戦布告である。それは中国に「古い悪友」を切れと迫っている。米国も台湾を「捨てた」のだから。
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掲載日:10月30日(土)22:0:26
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 32 平成 16 年 10 月 28 日 》
■中国は北朝鮮の盾、それとも北朝鮮は中国の盾?
      福井義高(青山学院大学助教授・戦略情報研究所客員研究員)
 最近、筆者はアメリカの東アジア問題専門家。ウィリアム・トリプレット氏の手になる『悪の連結:北朝鮮と中国の無法』を訳出した(扶桑社刊)トリプレット氏は、レーガン政権スタッフや上院外交委首席法律顧問を歴任し、共和党の対中国政策に深く関わってきており、『悪の連結』は北朝鮮に焦点を当ててはいるけれども、アメリカ保守派の(有力な部分の)対中国観を知る上でも大いに参考になる。
 本書の問題意識は、一言で言えば、北朝鮮問題とは北朝鮮・中国問題であるということである。日米とも、政策当局者やほとんどの専門家は、北朝鮮問題に関しては、中国を善意のあるいは少なくとも嫌々ながらの仲介者であると認識しているけれども、実は、北朝鮮という無法国家の盾となっているのが中国であり、北朝鮮と中国は一体として考えねばならないというのである。
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掲載日:10月30日(土)21:59:43
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 31 平成 16 年 10 月 16 日 》
■加瀬テル子さんの「拉致」から見えるもの
           真鍋貞樹(戦略情報研究所専務)
 新たに特定失踪者の中から北朝鮮での写真が入手された。1962年(昭和37年)4月に自宅からパーマに行ったまま失踪した加瀬テル子さん(当時17歳)だ。(注:当初1961年、16歳と発表したが、1962年、17歳と判明)。北朝鮮から持ち出された写真の中で、本人が特定されたのは藤田進さんに次いで二人目である(平成16年10月16日
現在、調査会には14人の写真がある)。
 加瀬テル子さんの失踪が明確に「拉致」と判明したことから、新たな拉致の実態が解明されることになる。それは、第一に、加瀬テル子さんと一緒に北朝鮮で行動していた男性について明らかになったことにより、拉致された日本人が拉致された日本人を世話していたという事実だ。第二に、「大町ルート」という拉致された日本人を運ぶルートの存在が証明されつつあることだ。第三に、千葉県・九十九里海岸という太平洋側でも拉致はあったという事実だ。そして第四に、1950年代と1960年代の「拉致」は行なわれており、拉致は恒常的に行なわれていたという事実だ。
 10件15人で拉致事件は終わりでは決してない。こうした特定失踪者問題調査会の発足当初からの問題意識は、徐々に証明されつつあると言える。しかし、それもまだ始まったばかりなのだ。
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掲載日:10月15日(金)16:36:15
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 30 平成 16 年 10 月 12 日 》
■日朝交渉、引き延ばしているのは誰?
      福井義高(青山学院大学助教授・戦略情報研究所客員研究員)
 日朝交渉はなかなか前に進まないどころか、北朝鮮側の誠意のない対応で、半ば頓挫しかけている。国内世論も自民党内も、この「引き伸ばし」に態度を硬化させつつあり、経済制裁への支持が日増しに強まっている。しかし、現在、ポスト小泉の最有力候補が北朝鮮の不倶戴天の敵である安倍幹事長代理であることを考えると、小泉政
権が続く間に、是が非でも国交正常化の目途を付けたいのは北朝鮮である。とすると、実は交渉を引き延ばしているのは小泉首相ということになる。期待させておいて落胆させる、強硬策よりもこうした手法の方が相手のダメージは大きくなる。北朝鮮は、次の首相が安倍氏だとすると、小泉首相にすがらざるを得ない。それを見透かして、それとなく思わせぶりな態度で期待を持たせつつ、結局、北朝鮮が期待する本格的経済援助は与えない。時間が経てば経つほど、北朝鮮の国内情勢は悪化する。表向き、対話を強調する小泉首相が狙っているのは、北朝鮮の自己崩壊なのだ。
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掲載日:10月9日(土)23:23:2
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 29 平成 16 年 10 月 8 日 》
■前号青木直人論文「中国『戦略と管理』論文の衝撃性」は27号となっていましたが28号 の間違いです。お詫びして訂正します。
■戦略情報研究所正式ホームぺージ開設
 以下のアドレスで開設しました。まだ工事中の部分が少なくありませんが、ぜひご覧下さい。
    http://www.senryaku-jouhou.jp
 なお、メールアドレスも正式のものを設置しました。これまでのアドレスでも利用できますが、とりあえずお知らせしておきます。
    info@senryaku-jouhou.jp
■「法と証拠」の限界をどう乗り越えるか
               真鍋貞樹(戦略情報研究所専務)
 特定失踪者の再調査・捜査にようやく警察全体で取り組む姿勢を見せ始めている。10月4日、全国の都道府県警の拉致担当者を警察庁に招集し、拉致認定に向けて全面的に取り組むとの訓示があったという。日本で唯一の捜査当局が本腰をあげることで、拉致問題の全容解明に少しでも結びついていくことを期待する。しかし、日本の捜査当局の大原則である「法と証拠」に基づく犯罪捜査では、拉致問題という極めて異常な国家犯罪をどこまで追究できるか、そしてなによりも拉致被害者の全員を救出できるか、ということになると限界がある。「法と証拠」に基づく捜査だけでは、拉致事件の真実の追究は困難だからだ。
 その限界を超えて、拉致事件の真実の追究のためには、警察のこれまでの方法論とは異なるものを採用しなくてはならない。その一つが、特定失踪者問題調査会が実践している方法論に他ならない。両者をベスト・ミックスすることによってはじめて、拉致事件の全容解明がなされるであろう。
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掲載日:9月28日(火)22:45:33
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 28 平成 16 年 9 月 28 日 》
■中国「戦略と管理」論文の衝撃性
    青木直人(ジャーナリスト)
 情報を読み解く鍵はなによりも、「第一次情報」にあたることにかかってる。オリジナルな情報は第三者からの伝聞や又聞き、解釈といった「第二次情報」や「第三次情報」とは比較にならない。なかでも北朝鮮や中国など共産党の情報管理が徹底している国ほど、伝聞ではなく、第一次情報に直接アクセスすることが大事なのである。
 最近話題になっている中国の戦略問題誌「戦略と管理」(隔月間)の廃刊をめぐる諸問題について触れたい。日本の新聞各紙の報道では、天津社会科学院経済研究所の王忠文研究員が、同誌最新号で「北朝鮮では金一族の極左政治と
迫害が続いている」「国家財政は破綻しているのに、核とミサイル開発に熱中」「道義的に支援する必要はない」と、「異例な」北朝鮮批判を展開、その結果、同誌は回収され、当局から休刊処置を命じられたという。
 これだけの報道では、読者はやはり中国と北朝鮮は一枚岩の関係にあり、論文はせいぜいリベラルな知識人による北朝鮮批判に過ぎなかったのだという印象しか持たないはずだ。
 だが新聞に掲載された抜粋ではなく、オリジナルな記事の全文に直接あたってみれば、この論文の趣旨は明確である。つまり、わが国もこれまでの対北朝鮮政策を転換して、米国とともに「北朝鮮処分」に踏み切れと言う衝撃的な提
言なのである。
 論文は「米国と提携して六カ国協議を成功させ」「北の核を阻止することはわが国の国益にプラスである」「中国が一層の対米協調外交を推進することは日本や韓国、それにロシアとのパワーバランスからもメリットがある」として、そのためには、いまやお荷物でしかなくなった「東方の悪友」北朝鮮を切り捨ルことが必要なのだ、と主張する。あきらかに胡錦濤政権の提唱する「新思考」外交につながる戦略論で、なかでも対米関係を重視せよという文脈のなか
で、北の内政外交が非難されていることに注目してほしい。問題はなぜいまこんな記事が中国のメディアに掲載されたのか、ということだ。六カ国協議の先行きが不透明だからなのである。
 朝鮮半島の動向を決定する基軸は米朝関係にある。両国の綱引きのなかに中国がいる。論文は、そうした情勢を踏まえた上で、公開された。あの「金正日政権は我々が米国と対決してまで本当に守る価値があるのか」と。あきらかに
将来の政策転換を要求するためにアドバルーンなのである。
 「戦略と管理」論文からは国際政治のダイナミックさが伝わってくる。回収されたとはいえ、筆者や論文の内容が国内で非難の遡上に上げられた兆候はない。さらに同誌が人民解放軍総参謀部の強い影響下にあることも興味深い。つ
いに中国の政府系戦略誌に公然と北朝鮮処分を唱える論文が登場した。日本のメディアはことの重大性に気づいてもいない。(29日の講演ではこうした朝鮮半島を巡る中国の最新動向をお話します)。
■戦略情報研究所第2回講演会
◎日時:9月29日(水)18:30〜
◎会場:友愛会館 9階大会議室
〒105-0014 東京都港区芝2-20-12 TEL 03-3453-5381
(都営地下鉄三田線芝公園駅A1出口徒歩2分、JR田町駅徒歩10分)
◎講師:青木直人氏(ジャーナリスト)
◎テーマ:米中提携・中国が金正日を見捨てる時
◎参加費:2000円
※このメールマガジンは会員用のメールマガジン「おほやけ」のエッセンスをお送りするものです。
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掲載日:9月20日(月)19:7:50
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 27 平成 16 年 9 月 17 日 》
■中国利権と日本の社会病理
            青木直人(ジャーナリスト)
 宝島社から「宝島リアル60・中国利権の真相」(「赤い貴族に群がった日本の政・官・財・メディア」・1260円)を出した。担当の編集者は「北朝鮮利権の真相」を手がけた骨太の編集者・井野良介氏である。
 一ヶ月前、中国で開催されたアジア杯サッカーの光景は衝撃的なものだった。テレビの映像から聞こえてきたのは地元中国人の日本選手や日の丸、君が代への怒号とも言えるブーイングの嵐だった。重慶、済南、北京と会場は変わっ
ても、事態は一向に収まらない。決勝戦の行われた北京では、試合後、一部市民の反日暴動騒動にまで事態は発展した。
 だが、国交正常化から30数年、これほどまで露骨に中国人の対日敵対感情の爆発を目撃しても、日本社会からは危機感がほとんど伝わってこない。なかでも、政界、財界、外務省などエスタブリシュメントの危機意識の低さは驚く
ほどである。その点では北朝鮮による日本人拉致事件と同根の社会病理が日本を覆いつくしている。このままなら確実に事件は再発するだろう。なぜこんなことになったのか。それを実態的に解明しようとしたのが「中国利権の真相」
である。沈黙と無関心の理由を一言で言えば、「日中友好」という名の政官財メディアの総翼賛体制がしっかりと根を張り、中国との間に利権構造が築かれているからなのだ。彼らは中国の不条理にノーと言わなかった。
 たとえば、政治家。議員たちは、この25年間、中国に供与された6兆円もの経済援助(ODA)にたかった。中国側要人からの依頼で、彼らの関わるプロジェクトに日本の円借款や国際協力銀行からの融資を実行する。ODAの実態は「日本の唯一の外交カード」(外務省)どころか、国益とは無関係に、個々の政治家が中国首脳との私的人脈を作るためのカードに堕落しているのだ。融資の実態はデタラメとしかいいようがない。
 外務省がHPで「無償援助」と書く104億円のプロジェクトが、実は中国では援助ではなく、「日中両国政府」のビジネスとして広報されているし(中国は公式にも「共同投資」と公言している。これはODA原則違反である)また、最高実力者だったトウ小平の子供10人のうち、4人が日本のODAの受け入れ窓口に関与している。彼ら赤い貴族たちに福祉カンパを口実に、献金を続けた日本企業もある。代表が中国進出ナンバー1の伊藤忠商事だ。六本木開発の
森ビル。森稔会長は竹下登元首相の強い依頼で、上海に世界一の高さの高層ビルを建設予定しているが、計画から10年たったいまも、現場は更地のまま手つかずの状態にある。資金不足が原因だが、事業には国際協力銀行から私たちの
公金が50億円出資されている。それでいて、この予定地は上海一地盤沈下がひどく、一年で6,7センチも沈んでいる場所なのである。だが、日本の悲劇はこれで終わらない。問題が明るみにされないのである。どんなデタラメをし
ても、相手が中国だと、社民党、共産党、それに与党公明党もパス、知らん顔。拉致事件と何も変らない。中国のスキャンダルを朝日新聞や岩波書店が活字にすることも告発することもない。フィリピンのマルコスは叩けても、トウ小平
は叩けないのだ。
 チャイナスクール・中国大使の面々も同罪である。一部を除いて、彼らは退任後、対中国ODA案件に受注実績を持ち、進出にも熱心な一流企業に天下りして、中国進出のための「アドバイザー」のポストにつく。これでは中国に何
もいえない。
 評論家、経済紙(日本経済新聞)もひどい。躍進中国の虚像をひたすら宣伝ことに余念がない。彼ら「日中利権構造」の住人の存在は、中国反日ブーイングの陰画そのものだ。彼らの沈黙が、異様な江沢民の反日外交を下支えしたの
である。本書では触れなかったが、彼らのなかには「東アジアの平和と安定のため」との美名のもと、小泉首相が推進する日朝正常化と賠償金を虎視眈々とうかがう面々がいる。中国の反日に沈黙し、北朝鮮利権に蠢く国賊たちの跳梁
跋扈の実態を私たちは知っておくべきである。
■戦略情報研究所第2回講演会
◎日時:9月29日(水)18:30〜
◎会場:友愛会館 9階大会議室
〒105-0014 東京都港区芝2-20-12 TEL 03-3453-5381
(都営地下鉄三田線芝公園駅A1出口徒歩2分、JR田町駅徒歩10分)
◎講師:青木直人氏(ジャーナリスト)
◎テーマ:米中提携・中国が金正日を見捨てる時
◎参加費:2000円
※このメールマガジンは会員用のメールマガジン「おほやけ」のエッセンスをお送りするものです。
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掲載日:9月20日(月)19:7:20
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 26 平成 16 年 9 月 14 日 》
■北朝鮮の嘘
            荒木和博(戦略情報研究所代表)
 あちこちで言っているのだが、北朝鮮を分析する上で頭に入れておくべきことがある。それは「北朝鮮の公式発表は基本的に嘘である」ということだ。
 最初から嘘だと思って聞いて、「なぜああいう嘘をつくのだろう」と考えると意外と正直に北朝鮮の状況が分かる。もし真実を言っていたら「なぜ彼らは本当のことを言ったのだろう」と思えばいい。
 今回の爆発事件について、北朝鮮の白南淳外相は13日、ラメル外務政務次官ら訪朝中の英国代表団に対し、水力発電所建設のための山の爆破だったと述べた。白外相は、爆発が計画されたものだったと説明したという。随分景気の
良い建設工事で、本当ならさぞかし立派なダムができるのだろう。しかし残念ながらこれを信じる人間はもはや北朝鮮にもあまり残っていないと思う。もちろん白外相も例外ではない。
 ならばなぜこのような発表をしたのか。4月22日の竜川における暗殺未遂は、事件後まもなく「硝酸アンモニウムの肥料を積載した貨車や石油を積んだ列車などの入れ替え作業中、不注意によって電線に接触」と発表した。周りがほ
とんど吹き飛んでしまう大爆発で、なぜすぐに、見ていたような事故原因が発表されるのか不思議だが、今回の「発電所工事」もだいたいそんなものだろう。
 おそらく彼ら自身の感覚には「嘘」をつくことへの罪悪感のようなものがないのだろう。だから、在日朝鮮人を欺いて「地上の楽園」に帰国させることも、何ともなかったはずである。
 拉致問題についても、一昨年まで北朝鮮は「拉致など一度もやっていない」と言い続けてきた。そして、仕方なく拉致を認めた後は8人死亡などと言っている。そこに付けてきた死亡原因などはほとんど笑い話のようなものだ。そも
そも、これを信じる方が悪い。また、その嘘を暴くことは必要だが、一つ嘘が暴れて逃げられなくなればまた別の嘘をつくのが北朝鮮であり、これは一種の「遅滞戦術」とも言えるものだ。北朝鮮の嘘にとらわれないようにすることが
必要である。
 --北朝鮮は嘘つきである--日本人にはあまり同じレベルになりたくないことだが、少なくとも相手はそうだと思うことが対処の基本だと思う。
■戦略情報研究所第2回講演会
◎日時:9月29日(水)18:30〜
◎会場:友愛会館 9階大会議室
〒105-0014 東京都港区芝2-20-12 TEL 03-3453-5381
(都営地下鉄三田線芝公園駅A1出口徒歩2分、JR田町駅徒歩10分)
◎講師:青木直人氏(ジャーナリスト)
◎テーマ:米中提携・中国が金正日を見捨てる時
◎参加費:2000円
※このメールマガジンは会員用のメールマガジン「おほやけ」のエッセンスをお送りするものです。
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掲載日:9月20日(月)19:6:58
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 25 平成 16 年 9 月 6 日 》
■参考情報
 「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」の宋允復事務局次長が下記の予定で講演を行います。ご参考までお知らせします。
『驚愕の北朝鮮・歴史教育』反日教育の実態
9月25日(土)午後1時半 参加費1000円
さいたま市浦和区高砂3−1−4埼玉会館5B会議室
(浦和駅西口)
※自由主義史観研究会、日本世論の会埼玉支部の共催です。開催自体には当研究所は関与していませんので予めご了承下さい。
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掲載日:9月20日(月)19:6:17
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 24 平成 16 年 8 月 31 日 》
■第2回講演会のお知らせ
 戦略情報研究所では下記の要領で第2回講演会を開催します。奮ってご参加下さい。
日時:9月29日(水)18:30〜
会場:友愛会館 9階大会議室
〒105-0014 東京都港区芝2-20-12 TEL 03-3453-5381
(都営地下鉄三田線芝公園駅A1出口徒歩2分、JR田町駅徒歩10分)
講師:青木直人(ジャーナリスト)
テーマ:米中提携・中国が金正日を見捨てる時
--中国政府は朝鮮半島をどう見ているのか
--朝鮮半島をめぐるこれからのシナリオ=来年は要注意
--米中蜜月の足音が聞こえる
 中朝関係は明らかに変化しています。しかし、北朝鮮との間には拉致問題や核問題、中国とは経済のみならず領土問題や歴史問題など、課題が山積している割には日本は官民ともにその変化に対する認識が低いようです。今回
は『北朝鮮処分』の著者がその本質を鋭く抉ります。
講師略歴
1953年(昭和28年)島根県生まれ。中央大学卒業後、社団法人中国研究所で2年間中国語を学ぶ。週刊誌記者などを経て、フリーランスへ。
中国、台湾、など東アジアの政治経済軍事情報の取材と執筆をおこなう。人民日報は学生時代からほぼ30年間購読。
これまで中国本土30数回、香港、台湾5回、北朝鮮には1回渡航暦あり。
著書
『日本の中国援助・ODA』(祥伝社)2001年5月 処女作
『中国に再び喰われる日本企業』(小学館文庫)2002年3月
「人脈で読む中国の真実」(実業之日本社)2002年6月
「田中角栄と毛沢東」(講談社)2002年11月
「中国ビジネスのウソ」(宝島社)2003年3月 別冊宝島リアル
「中国ODA 6兆円の闇」‘(祥伝社黄金文庫)2003年9月
「北朝鮮処分」(祥伝社)2003年10月
他論文多数。
参加費:2000円
※この前日28日に特定失踪者(1000番台リスト)16人についての一斉告発が行われます。そのため、特定失踪者問題調査会から講演と別にこれに関する報告も行う予定です。
※このメールマガジンは会員用のメールマガジン「おほやけ」のエッセンスをお送りするものです。
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掲載日:9月20日(月)19:5:39
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 23 平成 16 年 8 月 26 日 》
■独裁体制と技術進歩
 荒木和博(戦略情報研究所代表)
 金日成著作集第40巻(1995.9.20)に掲載された金日成の教示に「鉄道運輸部門で8軸電気機関車と100トン重量貨車を早く導入することについて−−新たに作った100トン重量貨車と8軸電気機関車を見てイルクン(責任活動家)たちにした談話(1987年9月24日)」というのがある。独裁体制のもとでいかに技術開発が阻害されるかの典型である。この教示については筆者はかつて「現代コリア」で紹介したことがあり、現代コリア研究所のホームページに拙訳が掲載されている。興味のある方はお読みいただければ幸いである(会員向けのメールマガジン「おほやけ」には全文掲載)。
 金日成は現地指導をして、「100トン貨車」を作れと指導している。100トンというのは載せられる貨物の重さ(荷重)なので、貨車自体の重さ(自重)を加えると百数十トンになるだろう。大型機関車の重さである。ちなみに日本で
現在最大の電気機関車であるJR貨物のEH200型の重量は134トン。こんなものが50両つながって北朝鮮の貧弱な鉄道を走ったら線路にあたえるダメージは計り知れない。身近に鉄道マニアの知りあいがいる方はこの教示を読んでもらえばそれがいかに荒唐無稽なことか説明してくれるだろう。
 それよりも現場では複線化によって輸送力を増強しようとしているのだが、「首領様」はそれを許さず、複線化計画を先送りせよと指示をする。これに対して「首領様、それではいけません」などとは口が裂けても言えないのが北朝
鮮である。首が飛ぶ、という程度のなま易しいものではなく、下手をすれば収容所送りや公開処刑が待っているのだ。技術者は全知全能のはずの首領様の賢明な(?)指導にともかく従うしかない。その結果ますます鉄道輸送は停滞
する。この状況は社会のあらゆる側面で現われ、その結果が現在の北朝鮮の疲弊である。そして、内部での技術革新の可能性が閉ざされたことで北朝鮮はますます外国の技術と人材に依存するようになる。その延長線上に技術者の拉致
があることは言を待たない。
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掲載日:9月20日(月)19:5:2
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 22 平成 16 年 8 月 12 日 》
■「拉致認定」のまやかし
                           専務取締役 真鍋貞樹
 特定失踪者問題調査会(以下、調査会)では、政府に拉致被害者として32名(8月9日現在)の「認定」を求めた。それに対して、本人の写真が北朝鮮から持ち出された藤田進さんですら、政府は8月9日の日朝国交正常化に関する関係閣僚会議専門幹事会 (議長・杉浦正健官房副長官)で、杉浦副官房長官が「現時点で拉致被害者と認定するに足るだけの資料は集まっていない」と発言し、拉致被害者としての証拠が不十分であるとの見解を崩していない。政府として、32名の拉致の疑いが濃いとされる方々を拉致被害者として認定する気は現在のところ全く無いといってよい。
 調査会が32名の「認定」を求めた理由は、そこまで行なえば日朝交渉の俎上に登り、「救出」への道筋が開かれるだろうとの期待からだ。しかし、この期待が災いしたようだ。調査会としては、政府による「認定」が大切なのではなく、政府による「救出」が重要だとの認識に立って要請したのだ。しかし、政府の側は、「救出」するにはまず政府の「認定」が必要であり、「証拠不十分」なのだから、救出どころか認定することも困難だとの見解だ。
 政府が「認定」をしなければ、外交交渉の俎上にも上げないような手続き主義的で奇妙な空気が広がっている。拉致という極めて異例な国家犯罪に対抗して、全容を解明し、かつ救出していかなくてはならない問題に、こうした政府の姿勢は看過できるものではない。
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掲載日:9月20日(月)19:4:27
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 21 平成 16 年 8 月 12 日 》
■異説日中関係--日本政府による謀略の勝利(?)
      福井義高(青山学院大学助教授・戦略情報研究所客員研究員)
 サッカーのアジアカップにおける中国観衆の振舞いは、中国の異様な反日感情の激発とマナーのひどさを、日本のみならず全世界に印象付けた。この反日現象の理由として、小泉首相の靖国参拝への反発だとか、江沢民の反日教育の結果だなどと言う、政治や歴史と絡めた意見が出されている。一方、あくまでもスポーツなのだから、政治的・歴史的問題とは切り離して考えるべきと言うジーコ監督のような人もおり、「民度が低い」と言う、多くの日本人の「本音」をずばり口にした石原知事のような人もいる。
 しかし、今回のサッカーに限らず、昨今の中国における反日の背後にあるものは、もっと奥が深い。筆者の身に危険が迫ることを承知で,あえて書く.実は、長年の謀略の努力が実を結びつつあるのだ。もちろん、中国ではなく日本(政府)の謀略の勝利である。しかし、ある著名な経営者が言ったように、「成功は自らを破滅させる種子を含んでいる」この謀略の結末は、そもそも結末があるかどうか、誰にもわからない。
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掲載日:9月20日(月)19:3:30
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 20 平成 16 年 8 月 6 日 》
■「連続失踪事件」と「拉致の連鎖」
            戦略情報研究所専務・特定失踪者問題調査会専務理事
                                真鍋貞樹
 8月2日、特定失踪者問題調査会(以下、調査会)が「拉致濃厚」として新たに発表した藤田進さんのケースは、拉致事件の全容解明に重要な示唆を与えるものだ。拉致とは恒常的に日本全国で展開されたものであることは明らかだ。藤田進さんのケースはそれらに加えて、さらに「拉致の連鎖」を予見させるものと言えよう。なぜなら、藤田進さんの周辺のみならず、全国各地で「連続失踪事件」が数多くあるからだ。「拉致の連鎖」は、一連のアベック拉致事件で明らかだが、さらに、アベックのみならず拉致が全国各地で様々な形態で連続して展開された可能性がある。
 特定失踪者の調査を進めていくと、一人の失踪者の周辺に、別の失踪者が存在するケー
スがある。その連続失踪事件というものが、「拉致」なのか、それとも拉致以外の別の要因だったのかは判然としない。しかしも今後の調査によっては、そうした連続失踪事件というものと、拉致が明確に関連性を持つこと、すなわち「拉致の連鎖」が明らかになるかもしれない。
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掲載日:9月23日(木)20:58:56
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 19 平成 16 年 7 月 20 日 》
■「参議院無用論」を助長した今回の参議院選挙
                        戦略情報研究所専務 真鍋貞樹
 参議院の存在意義というものに立ち戻った時、今回の参議院選挙の結果は、深刻な問題を我々に突きつけている。それは、今回の選挙で、参議院の政党政治化が一層進んだことだ。参議院の政党政治化とは、衆議院のカーボン・コピー化と同義である。そしてそれらは、参議院がもはや「良識の府」ではなくなったことも意味する。政党政治化が進んだ参議院はもはや不要だ。全く同じものが二つ存在する意味はないからだ。
 しかし、本来、参議院が衆議院とは全く異なる存在のものであるとすれば、参議院の存在は非常に重要だ。それは、日本人拉致問題に見られるように、政党間の抗争という次元ではなく、長期的な視点に立った政策判断が求められるような課題に取り組むのは、衆議院よりも参議院の方がより実質的に行なえるはずのものだからだ。
 北朝鮮問題のような国家的課題が山積する中では、参議院の独自性を復活させ、政党の利害を超えた政策判断を参議院が進めていくようにすべきだ。各政党は参議院を政党間の利害抗争を超えた「良識の府」へと再び戻るよう改革していくべきだ。
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掲載日:9月23日(木)20:58:31
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 18 平成 16 年 7 月 8 日 》
■6カ国協議の裏で加速する中国の朝鮮半島有事シフト
                   青木直人(ジャーナリスト)
 6月30日の中国人民解放軍機関紙『解放軍報』は李玉中国人民解放軍総参謀長が26〜29日の4日間、北朝鮮を訪問し、中朝両国国境の『継続的な安全と安定の確保、および相互の友好関係強化のために』国境協定を締結したと報じている。
 現在まで協定の詳細な中身についてはあきらかにされていない。
 このベタ記事はもっと注目され、深く分析されるべきものである。理由は中国が北朝鮮の核開発を巡る6カ国協議にホスト国として参加、「話し合いによる解決」を進める一方で、今後、北朝鮮で一触即発の事態がありうることを現実的な可能性として考慮し始めたことを示唆する報道だからである。
 記事には3つのポイントがある。
(1)単なる実務的な協定にもかかわらず、人民解放軍制服組のトップがじきじきにピョンヤンに出向いて、調印していることである。
 解放軍はいわゆる四総部体制をとっている。
1・総参謀部 軍令を担当。作戦、情報、教育訓練などを専管し、実戦部隊を指揮・運用。かって登小平は総参謀総長として対ベトナム戦争の指揮をとった。現在このポストにいるのが記事にでてくる李玉である。
2・総政治部 政治工作と人事を担当。機関紙「解放軍報」はここが発行する。
3・総後勤部 兵器、装備、燃料補給など兵站を担当。軍の経営企業も管轄。
4・総装備部 98年に新設。武器装備の研究開発を担当
 これを見てもわかるように、総参謀部は戦争に当たって実戦の指揮をとるセクションなのである。今回の総参謀総長のピョンヤン訪問は形式的な友好訪問ではない。
 李総参謀長は『国境の安定』に関して、中国側の危惧を具体的に伝達する一方、同時に解放軍の駐留に関して北朝鮮が感じている警戒感情をやわらげるよう、説明を行なったはずである。
(2)この協定は、長く中朝国境の警備を担当してきた人民武装警察部隊に代わって、昨年9月、解放軍(東北・瀋陽部隊)が新規に、国境全域に配備された事態を事後追認する形で締結された。人民武装警察部隊から人民解放軍への警備シフト。これは中国軍が中朝国境で緊張が高まりつつあるという認識をもっていることを示唆する。(昨年の報道では、軍の実数は15万人とされているが、中国外務省スポークスマンは具体的な数字に言及することを避けている)
(3)最も重要なのは、唐突な印象を与えた解放軍の国境駐留が『協定』によって、一時的なものではなくなったことにある。ここがポイントになる。なぜなら解放軍は協定により、平時でも今後、長期間、合法的に、中朝国境地域に大量の軍隊を貼りつけうる法的根拠を手にしえたからだ。これで有事の際の対応はすばやいものになる。
 15万の兵力を中朝国境全域に展開しうる根拠は「国境の安全と安定」にある。脅威は難民だけではない。北朝鮮内部のクーデターや内戦による体制の混乱もこれに該当する。(米国国防総省はそう分析している)制服組のトップが直接北に乗り込んだ理由は北朝鮮に協定を飲ませることだった。李玉総参謀総長は北の国境警備のずさんさが中国の治安を乱しているのかを具体的に指摘しつつ、強引に軍の国境駐留を認めさせたはずだ。
 これとは逆の動きが20年前に中ソ国境であった。ブレジネフソ連共産党書記長(当時)の対中関係改善の呼びかけに答えて、中国共産党が誕生したばかりの『人民武装警察部隊』を解放軍駐留に替わってソ連国境の警備に配置したことである。目的は正規軍同士の突発的なトラブルを事前に予防して、紛争の発生を回避することにあった。警備水準の格下げは、対ソデタントのシグナルでもある。ソ連側も同じような信頼醸成処置をとって、以後、中ソ国境で紛争はおこっていない。
 今回の事態はこれとは逆のケースにあたる。鴨緑江、豆満江をはさんで、400キロの国境全域に正規軍3軍団15万人が常時駐留する。「異常事態」が通常化するのである。日本人の気づかないところで、中朝国境に有事即応体制が敷かれていた。動乱の気配が解放軍報の記事の背後から聞こえてくる。
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掲載日:9月23日(木)20:58:1
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 17 平成 16 年 6 月 17 日 》
■弱い北朝鮮と強い日本
              荒木和博(戦略情報研究所代表)
 私たちはいつも「北朝鮮にやられるのをいかに防ぐのか」ばかりを考えている。そこにあるイメージは「凶暴で何をするか分からない北朝鮮と、脅える日本」といったものだ。 
 しかし、国際社会の中で見れば日本と北朝鮮の国力の差は歴然としている。北朝鮮は面積で日本の3分の1、人口で6分の1、経済力に至っては比較のしようがない。かろうじて日本を上回るのが百万以上の軍隊だが、それも大部分は
まともに食うこともままならない状態である。もちろん、工作や謀略活動は日本を凌いでいるが、これは日本がやっていないというだけの話で、その気になれば対応できないことではない。
 また、今回の小泉訪朝は基本的には失敗だと思うが、その反面で北朝鮮のウィークポイントを明らかにする効用はあった。つまり、
 1、北朝鮮は援助が欲しい
 2、北朝鮮は経済制裁を恐れている
 3、建物への課税をはじめとする総聯への圧力は北朝鮮へのダメージとなる
 ということだ。そして、5.22でもこのカードは完全に捨てたわけではない。経済制裁も小泉総理自身がどこまで考えているかは別として、「平壌宣言を北朝鮮が守っていない」という理由でいくらでも切れるのである。かえっ
て、総理が「なにもやりませんよ」と言っている一方で制裁の準備を着々と進めた方が北朝鮮にとってはよほど不気味かもしれない。
 また、たびたび問題になる一昨年10月の5人の帰国について田中均・現外務省審議官が「5人はまた北朝鮮に戻す」という約束をしたという話も非難ばかりすべきではないと思う。最近、北朝鮮はこのときのビデオをマスコミにリー
クしたという話があるのだが、その「約束」が事実だとしても交渉の過程で「一度戻したら二度と北朝鮮には返さない」と言ったら北朝鮮は出してこなかったろう。
 本人の意向はともかく、これは見ようによっては「北朝鮮を手玉に取った」と言えないこともない。その結果として5人と、5人の家族8人のうち5人は
帰ってきているのだからこの「嘘」は評価されるべきではないか。できることなら「特定失踪者を10人返してきたら今度は本当に拉致問題は幕引きに持っていきますから」と言ってもう一度騙してきて欲しいくらいである。北朝鮮に
は散々騙されているのだし、今も「拉致問題はもう解決済み」などと言っているのだから、こちらから2,3度騙しても罰はあたらないだろう(日本人の美意識が許さないと言えばそれまでだが)。
 日本的な圧力というのは米国のようにあからさまにやるのではなく、ニッコリ笑って「圧力なんかかけませんから、仲良くしましょうよ」と言いながら裏で、なおかつこれ見よがしに圧力をかけていくということが効き目があるのか
も知れない(小泉訪朝がそこまで読んでやったなら大したものだが、そうでなくても謀略ばかりやっている国だから勝手にそう見てくれるだろう)。
 核についても、「北朝鮮が止めないなら、安全保障上日本も核武装を議論せざるを得なくなるなあ」くらいのことを言えば(別に記者会見で言う必要はない。政府や与党の誰かが呟けばいい)北朝鮮が動く以上に中国や米国が慌てて
北朝鮮を抑えにかかるだろう。かつて西村真悟代議士はこの発言で防衛政務次官を辞任せざるをえなかったが、あのときから比べると時代は様変りしているのだ。
 その是非はともかく、日本は米英中露など、世界のほとんどすべての大国と戦った世界で唯一の国である。負けた相手は米国だけであり、その米国相手の戦争も、後から考えれば情けないほど戦略のない戦いで、それでも4年間戦い
続けられたのだから(半分自嘲気味な表現だが)、北朝鮮に負けるはずはないのである。備えは万全であるべきだが、過大評価して彼らの謀略の術中に嵌ることがないようにすることが大事なのではないか。
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掲載日:9月23日(木)20:57:31
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 16 平成 16 年 6 月 6 日 》
■映画「シルミド」の見方
荒木和博(戦略情報研究所代表) 
 韓国では昨年12月24日開封され、人口の4分の1を越える韓国映画史上最高の1200万人が観覧した映画「シルミド」(康祐碩監督作品 薜景求・安聖基主演)が昨日から日本で劇場公開された。
 私はこの2月にソウルに行った折、産経新聞の黒田勝弘支局長から進められてこの映画を観た。大変面白かったので翌日また観てしまった。
 あらすじはあちこちで紹介されているのでそれをご参照いただきたいが、一つだけ指摘しておきたいことがある。この映画の中で一番大事な「国家による部隊の抹殺命令」が作り話だということだ。確かに隊員は1971年8月23日
にバスを乗取ったが、それは待遇の悪化への反抗であり、バスも自爆ではなく、持っていた手榴弾の扱いを誤って爆発させてしまったものと推定されている。また、ほとんど囚人で作られた部隊というのも誇張らしい。
 安明進氏とこの映画のことを話していたとき、私が「この映画は日本人には南北関係の深刻さを理解させる良い契機になるでしょう」と言ったところ、「韓国では抹殺命令のところが『軍事政権時代は人権を無視したひどい時代だったのだ、今(の盧武鉉政権)は良い世の中だ』と受け取られており、深刻な問題です。同じ映画でも日本と韓国で受止め方が違うんですね」と言っていた。
 684部隊は実在の部隊であり、1968年には青瓦台ゲリラの後にこれとは別の韓国陸軍の特殊部隊(HID)が報復として休戦ラインを越え北に侵入、いくつかの軍事施設を爆破している。これに対し10月には北朝鮮が韓国東海岸の
蔚珍・三渉に120名の特殊部隊を侵入させた。当時は休戦協定以来最も南北関係が緊張していたときだったが、本当は今も基本的な構造は変わっておらず、あくまで南北間は「休戦」でしかないのである。映画でも部隊創設の経緯や
訓練などについてはほぼ事実に近い描かれ方をしているようで、その部分だけでもこの映画から南北関係の緊張の一端を知ることはできる。。
 いずれにしても、そんなことを頭に入れた上で、ぜひ一度「シルミド」をご覧になるようお勧めしたい。別に配給元から便宜を受けているわけではないが、観る価値のある映画だとは思う。
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掲載日:9月23日(木)20:57:0
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 15 平成 16 年 6 月 3 日 》
■パレスチナ--子供を利用したテロと人権侵害について--
      福井義高(青山学院大学助教授・戦略情報研究所客員研究員)
 パレスチナで繰り返されるイスラム教徒の自爆テロをはじめとするテロ行為の中でも特に唾棄すべきものに、子供を利用したテロがあげられる。
 3月28日付の共同通信電によれば、3月24日に拘束された自爆テロ未遂犯は知的障害のある16歳で、テロリスト組織から2000円程度の報酬で依頼を受け、学校で先生に「いいことをすれば天国に行ける」と言われたと本人が供述している。
 アムネスティー・インターナショナルも、3月24日付の声明で、この事件を反人道的犯罪として批判するとともに、こうした行為をパレスチナの指導者が即時に非難すること求めている。
 こうした明白な反人道的犯罪についても、非難の声を上げず、せいぜいどっちもどっちというような議論を展開する人たちは、結局、人権をそして他国の子供の命を政治利用しているだけである。ここに見られるのは、日本で人権を声高に唱える人たちの多くが拉致被害者に冷酷であったのと同じ構図である。
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掲載日:9月23日(木)20:56:42
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 14 平成 16 年 5 月 29 日 》
■日朝国交正常化の幻想
                    真鍋貞樹(戦略情報研究所専務)
 小泉首相の再訪朝によって、日朝国交正常化交渉が始まろうとしている。「正常化」という言葉は何かしら良い響きを国民に与える。正常化すれば拉致問題の全面解決が進んでいくかの如くだ。自民党の幹部のみならず、一般的にも拉致問題について正常化交渉の中で明らかになることを期待している声が強い。この期待が幻想に終わることが無いことを期待する。しかし、北朝鮮という謀略国家との「正常化」は、事実が明らかになるどころか、事実を隠蔽しかねない。
北朝鮮が狙っているのは、「正常化」交渉の中で拉致の全容を解明するものではなく、「拉致という事実はもはや無い」ということを日本側に認識させることだ。すなわち、拉致問題の幕引きであり、いかに拉致という国家犯罪を隠蔽するか、なのだ。なぜなら、拉致問題の全容が解明されることを主犯である金正日が喜ぶはずがないからだ。
 小泉首相には、是非とも強力に「正常化」交渉を進めていってもらいたい。そうすれば、「正常化」が幻想であることと、拉致問題の幕引きを狙う謀略であることが国民の前に明らかになるであろう。
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掲載日:9月23日(木)20:56:18
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 13 平成 16 年 5 月 16 日 》
■■「家族8人帰国を最優先」の落し穴
荒木和博(戦略情報研究所代表)
 小泉総理の訪朝について、様々な評価、憶測が飛び交っているが、何より多いのは「これで拉致問題の幕引きにされてしまうのではないか」という懸念である。今回訪朝が合意に至る過程では8人を取り返せるという確約が一応できたのだろうが(そうでなければ日本の世論は逆に強く反発することになる)、それではこれから家族も含めて取り返すために総理は毎回平壌に赴かなければいけなくなるのではないか。
 拉致被害者5人に家族が8人である。もし100人被害者がいれば家族を含めて単純計算で260人、200人なら520人にもなるのである。このやりかたで続ければ実質的にはほとんどの被害者は事実上の見殺しになる。
 もちろん、今取沙汰されている北朝鮮との「合同委」など棚上げの最たるものだ。日本側は日朝交渉の本筋から分離しながら、「合同委ができたのだから棚上げではなく、積極的に進める」と言いわけし、北朝鮮側は「これで障害は
なくなりました」と将軍様に報告するのだろう。誘拐犯と一緒に被害者を探しましょうという発想がどこから出てくるのか、北朝鮮が言うならともかく、日本側でそれを唱えるというのはおよそ常識を疑うものだ。
 そう考える中で一つ思い当ったことがある。昨日法律家の会の役員である川人博弁護士と話していて指摘されたことなのだが、そもそも、最優先になるべきは政府認定拉致被害者で北朝鮮が死亡ないし未入国と発表した10人の方
だったのではないか。そう言うと「家族を切り捨てるのか」と反発もあるだろうが、「救出」という意味からすれば直接の拉致被害者が最優先で、それに付随して家族の問題が出てくるというのが本筋のはずである。
 もちろん、現在の方針にはそれなりの理由がある。帰国した5人に対して他の政府認定拉致被害者の家族も、特定失踪者の家族も、そして多くの国民も「家族が帰国すれば話してくれるだろう」という切なる願いを持って見守って
きた。それが実現すれば確かに家族帰国最優先というのは一定の意味をなすだろう。しかし、家族の帰国後に5人が口を開いてくれるという保証は実は何もないのだ。北朝鮮側も5人を返すにあたっては絶対真相を話させないという確約(それは、話したら5人も、そして日本の家族も皆殺しにするなどの脅迫を含めて)をとっているだろう。日本
に帰国してから後も、私たちに分からない形で彼らに脅迫が続いているかもしれない。
 国家の方針としてはまず認定している被害者の全員救出・完全なる真相究明を目指し、次にその家族の帰国を求めるべきである(今ごろ気付いた自分自身への反省も込めて)。そして、その一方で拉致に関する情報を公開し、認定できる被害者はすぐに認定し、それ以外にも多数拉致被害者がいるという前提で情報の収集、北朝鮮国内からの救出をはかるべきである。また、北朝鮮の様々な情報戦・謀略戦についてもそれ自体の分析をもっとしっかりしていかなければならない。 
 戦略のミスは戦術ではカバーできない。今からでも戦略の見直しが必要である。
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掲載日:9月23日(木)20:55:52
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 12 平成 16 年 5 月 8 日 》
■第1回講演会のご案内
 このたび戦略情報研究所主催の第1回講演会を企画致しました。お誘い合せの上ご参加下さい。
 日時 6月2日(水)18:30〜20:30 
 会場 友愛会館1階A会議室
(港区芝2-20-12 都営地下鉄三田線芝公園駅A1出口から出て直進1分左側)
 講師 安明進氏(元北朝鮮労働党作戦部戦闘員)
      「北朝鮮の本質について」
    増元照明氏(家族会事務局次長・調査会常務理事)
      「26年間を通して感じたこと」
    荒木和博(調査会代表・戦略情報研究所代表)
      「拉致を招いた日本の体制--昭和史からの視点」
  ※内容についてはまだ若干変更の可能性があります。
 参加費 2000円
  ※事前の申込は不用です。直接会場においで下さい。
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掲載日:9月23日(木)20:55:20
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 11 平成 16 年 5 月 2 日 》
■大東亜戦争と国際共産主義について
               荒木和博(戦略情報研究所代表)
 20世紀を振り返るとき、世界に最大の禍をもたらしたのはマルクス・レーニン主義、言い換えれば国際共産主義であったと言えよう。北朝鮮ではその災厄は今も続いている。これらは個別的な問題ではなく、その思想から導き出される必然的結果であると言える。
 その視点から東アジアを見るとき、共産主義という禍をもたらした原因の一つには日本の敗戦があると言える。歴史のイフと言ってしまえばそれまでだが、日本が日支事変を早期に終結し蒋介石政権との間に一定の関係を築くことができれば中国共産党が大陸を席捲することもなかった。さらに日米開戦を回避するか、開戦しても早期に停戦に持込むことができればアジア共産化の可能性はほぼゼロになっていたはずだ。
 これまで私たち自身「聖戦」論と「侵略戦争」論の二分法にとらわれすぎていた。確かに日本が米英蘭などと戦ったことが東南アジアなどの有色人種の国家の独立に寄与したことは事実だが、それは結果論であって日本はその目的を達成するための戦争を行ったわけではない。逆に一部指導者の共同謀議による侵略戦争だというのも無理な理屈である。それは東京裁判の記録を見れば明らかだ(もちろん判決は最初から決っていたようなものだから、結論ではなくその経過が重要である)。強いて言うなら大東亜戦争は「失敗した自衛戦争」である。もちろん散華した英霊に対する敬意は後々まで失ってはならないが、それと戦争指導に関する評価は別である。
 結果論として考えるとき、大東亜戦争がきっかけとなって米欧諸国の植民地が独立したという「功」の部分より東アジアからインドシナに至る広大な地域の共産化に「寄与」してしまったことの「罪」の方が大きいのではないだろうか。もちろん米国も蒋介石政権も国際共産主義のシナリオに乗せられお互いに消耗したあげく、東アジアの共産化を許して
しまったということだからこの責任は当然ながら日本のみが追うべきものではないのだが、当時世界の指導的国家の一つであり、共産主義と直接対峙していた日本にとって米国にも中国にもその脅威を訴え、戦争を回避して共同して共産主義の膨張を食い止めるべきだった。
 それができなかった責任は、リーダーシップが欠如し、大戦争を戦いながらその基本方針すら曖昧にしていた当時の政府や軍の指導者に問われるべきだった。しかし敗戦のため、問われたのは「米英などに刃向った責任」だけであった。占領開始後まもなく米国は共産主義との対峙を深刻に認識するようになり、日本の戦争に至る理由を理解するが、今更
自分たちにも非があったとは言えず、占領政策は変更しても戦争自体についての見方は変わらなかった。
 私たちは国家戦略を考える上でも、先の大戦の意味についてもう一度見直しを行うべきではないだろうか。
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掲載日:9月20日(月)19:2:47
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 9 平成 16 年 4 月 22 日 》
パレスチナ自爆テロの背景
               福井義高(青山学院大学助教授・戦略情報研究所客員研究員)
 パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの最高幹部ヤシン、ランティシがイスラエル軍に相次いで暗殺された。暗殺を命じたイスラエルのシャロン政権には、アラブだけでなくヨーロッパ諸国首脳からも非難が浴びせられ、小泉首相も「遺憾だ、やり過ぎた」と批判している。
 非難の対象はイスラエルだけではなく、黙認しているばかりか事前に了解していたとも言われるアメリカにも向けられ、左右を問わず反米主義者は、反テロリズムを唱えるブッシュ政権の暗殺容認はダブル・スタンダードであると攻撃している。
確かに、大手メディアの報道を通して浮かび上がる経緯、無抵抗の年老いた身体障害の精神的指導者を軍が問答無用に殺したのであれば、イスラエルに弁解の余地はないように見える。
 しかし、ハマスをイスラム原理主義組織、ヤシンを精神的指導者と言うのは、オウム真理教を仏教原理主義組織、松本智津夫をその精神的指導者というようなものである。ハマスはテロリスト集団であり、一切の交渉を否定、イスラエルの存在自体を否定し、ユダヤ人を殺すことが神の教えに叶うと主張しており、実際に、イスラエルの市民・軍人に無差別テロを仕掛け続けている。
 こうした狂信的言動・行動は、イスラム教の教えに基づくものではない。そもそも、イスラム教は、キリスト教徒とユダヤ教徒には強制的改宗を要求せず、近代に至るまでは反ユダヤ的傾向の強かった、キリスト教の支配するヨーロッパよりも、イスラム世界のほうがユダヤ人にとっては住みやすく、イスラエル建国まで、イラクもふくめ中東地域にはユダヤ人のコミュニティーが広がっていた。
 いずれにせよ、パレスチナにおけるハマスその他のテロリスト集団をイスラム原理主義組織、その頭目を精神的指導者という美名で粉飾し、結果として彼らの実態を隠蔽することは、中立を装った情報操作と言われても仕方がない。
 しかしながら、こうしたテロリストがパレスチナのイスラム教徒(パレスチナ人)に支援されていることも事実である。ハマスなどがテロリスト集団であることは認めつつ、こうした勢力が民衆に支持されているのは、イスラエルが彼らの領土を占領し、難民となったパレスチナの生活を圧迫しているからだという見方は必ずしも完全には否定できない。
 いわゆるヨルダン川西岸地区とガザ地区は、1967年の六日間戦争で、イスラエルが占領した地域であり、ユダヤ人入植問題と言うのは、この占領地域(の一部)をイスラエルの正式の領土に編入する動きだと理解し得る。オスロ合意により、パレスチナ人組織ではじめて、アラファト率いるPLOはイスラエルとの共存の可能性を公式に表明し、この占領地域に独立パレスチナ国家を成立させることにイスラエルも同意した。ただし、PLO以外のハマスを含む主要な組織はイスラエルとの一切の交渉を拒否しており、アラファト自身、合意後も非公式の場では、イスラエルの存在を最終的には否定する発言を行っている。
 その後、アラファト主導のパレスチナ自治政府は設立されたものの、どの範囲をパレスチナとして独立させるか、独立後の安全保障をどうするかなどは決まっていない。しかし、イスラエル側は一部の強硬なシオニストを除き、パレスチナ人による国家建設自体は認めている。タカ派とされるシャロン首相も例外ではなく、ハマス幹部暗殺も、ガザ地区からのイスラエル軍撤退をにらみ、今のうちにテロの基盤を破壊しておくという意図に基づく。
 一部に行き過ぎがあることは否定できないものの、イスラエルの行動をどう評価するかは、まずイスラエルが自国の存在さえ認めない狂信的テロリストに相対しているということを認識する必要がある。どの地域をパレスチナ国家とするか、パレスチナ人のイスラエル(六日間戦争前から領土だった地域)への帰国をどの程度認めるかは双方の対立する言い分があり、解決は容易ではない。しかし、イスラエルの存在自体を否定するのでない限り、ハマスなどのテロリストはもちろん、テロ防止を事実上行わないアラファト率いる自治政府への批判がほとんど聞こえてこないのは、イスラエルに対して公平を欠いている。
 結局、パレスチナをめぐる報道は、韓国や南ベトナムの腐敗のみを取り上げ非難し、はるかにひどい恐怖政治で自国民を弾圧していた(いる)北朝鮮や北ベトナムを今から思えば滑稽なほど美化した冷戦時代の進歩的報道と変わりはない。
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掲載日:9月20日(月)19:1:58
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 8 平成 16 年 4 月 19 日 》
イラク人質事件についての自作自演の疑いを封印することなかれ
                真鍋貞樹(戦略情報研究所専務)
 イラク人質事件について「自作自演ではないか」という疑問がインターネット社会の中で燻っている。自作自演を疑う立場からは、今井氏が事件前に送ったメールや、その後のあまりにも不自然な犯人の声明や家族・支援者の行動を指摘している。一方の自作自演説を否定する立場からは、自作自演を裏付ける証拠も乏しく、あの混乱したイラク社会でシナリオ通りに事が進むとは思えない、というのが大方の見方だ。今回の一連の事件が果たして自作自演なのか、その真偽は今の時点では定かではない。しかし、自作自演が真実かどうかという検証をしていくことは極めて重要だ。
 問題は、日本のテレビや新聞で、自作自演というものへの探求がされた上での報道がほとんど試みられていないことだ。イラク人質事件に対する日本のテレビや新聞の論調は、インターネットでの論調と全く異なっている。一つは、家族の心労や支援者の動きを中心におき、彼らが政府へ批判の言説や行動を採ったことについて、客観的報道というよりも、シンパシーを増幅させるような報道だ。もう一つが、人質になった関係者の自己責任論だ。自己責任を論ずることは当然だが、自作自演を疑っての報道は極く限られた一部だけである。このように、インターネット社会で展開される論評と、テレビや新聞での論評との間では、自作自演に対する取扱いには大きな落差がある。このままでは、自作自演への疑いが一部のインターネット社会で燻り続けていくものの、表のテレビや新聞では封印され忘却のかなたに追いやられるであろう。
 こうした現象は、テレビや新聞が北朝鮮による日本人拉致事件を取り扱うときに、全く逆の形で現れていた。北朝鮮による日本人拉致事件が初めて報道された昭和50年から、北朝鮮による日本人拉致という真実は陰の言論の場では燻り続けたものの、表のメジャーなテレビや新聞報道では左翼陣営による「でっち上げ」の声によって封印をされたままだった。それが「でっち上げ」ではなく真実であったことが判明した平成14年9月17日以降は、お涙頂戴の報道が洪水のように流された。この現象はイラク人質事件の報道の全く裏返しである。北朝鮮による日本人拉致事件では、その真実が「でっち上げ説」によって、表のテレビや新聞からは封印された。イラク人質事件では自作自演という声がインターネット社会に押し込まれ、表のテレビや新聞からは封印されている。
 一体、こうしたテレビや新聞による報道の逆転現象はなぜ起こるのだろうか。マスコミという存在は、国家権力のみならず他の様々な権力構造を突き破り、権力構造の中に潜む不正を糾し、そしてその真実を社会に明らかにしていくためにあるはずだ。だとすれば、いかなる問題に対しても封印することなく、探求していく責任と役割を持っているはずである。つまり、マスコミにとってタブーは無いはずだ。したがって、インターネット社会で行われているイラク人質事件の自作自演への疑問について、テレビや新聞は封印することなくきちんと検証していくことが、社会的責任を果たすことになるはずだ。
 真実の探求に文字通り命がけで真摯に立ち向かっているマスコミ関係者を知る者の一人として、日本のテレビや新聞が、北朝鮮による日本人拉致事件であろうと、イラク人質事件であろうと、お涙頂戴の視聴率稼ぎの報道から脱して、真実を探求するという本来の報道を試みていくことを願う。その結果、イラク人質事件が自作自演でなかったことが判ればそれはそれで結構なことなのだ。
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掲載日:9月20日(月)19:0:58
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 7 平成 16 年 4 月 17 日 》
臨時のホームページ設置
 極めて簡単なものですが、臨時のホームぺージを設置しました。 戦略情報研究所の概要、メールマガジンのバックナンバーを収録しています。ご利用いただければ幸いです。
アドレスは http://www.asahi-net.or.jp/~lj7k-ark/index.html です。
戦略情報研究所 会員制度スタート
 戦略情報研究所では情報発信の密度をより濃いものとしていくため、5月より下記の通り会員制度をスタートさせることと致しました。つきましては奮ってご参加賜りますよう、お願い申し上げます。
一般会員  年間1万円
(ファックス・電子メールによる情報の提供と講演会等への参加券6000円分)
個人賛助会員  年間1口2万円
(ファックス・電子メールによる情報の提供と講演会等への参加券1口につき6000円分、戦略情報研究所発行の出版物の配付)
団体賛助会員  年間1口5万円
(ファックス・電子メールによる情報の提供と講演会等への参加券1口につき10000円分・戦略情報研究所発行の出版物の配付)
※このメールマガジンはそのまま継続しますが、若干1回あたりの文が短くなり、会員あてにお送りする情報のエッセンスとなります。発行頻度は変わりません。
 お申込は下記にご記入の上メールをsii@mbn.nifty.comまでお送り下さい。なお、メールでお申込の方には情報はメールでお送りします。
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※特定失踪者ご家族各位
 先日のニュースにこのメールマガジンについて記載したところ、多数のご家族からお申込をいただきありがとうございました。ただしこの会員制度については特別のご関心をお持ちでない限り入会される必要はありません。特定失踪者問題についての情報はすべて調査会のメールニュースで流しますので、お気遣いなさいませんようお願い申し上げます。
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掲載日:9月20日(月)18:59:50
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 5 平成 16 年 4 月 13 日 》
北朝鮮との多元外交の落とし穴
                    真鍋貞樹(戦略情報研究所専務)
 山崎拓元自民党幹事長と平沢勝栄元拉致議連事務局長が、中国の大連で北朝鮮の外交当局と秘密裏に交渉の場を持ったことについて、家族会や救う会からの批判はもとより、自民党や政府関係者から批判が沸き起こった。その内容の是非はさることながら、外交の一元性を崩すものだとする批判が強い。それに対して、小泉首相は、「今回の交渉は私が関知しないことなので外交の一元性を崩すものではない」とのコメントをした。このコメントは、「外交の一元性」という意味を故意に歪めたものだ。当該の山崎、平沢氏は与党・自民党の前・現幹部であり、前国会議員と現国会議員である。すなわち、広義の意味での政府関係者とも言える。そうした政府関係者が、政府の政策決定過程とは異なる方法論で交渉にあたる、というのはまさに多元外交を実践したものと言えるからだ。
 今回の山崎元幹事長による多元外交で、どのような「合意」を北朝鮮側としたのか明らかではないが、それが政府の決定事項と異なるものであっては許されないはずだ。平沢議員は「結果が良ければ良い」との認識を示したが、それは誤りだ。民主国家における政策決定は、決定に至るプロセスも重要だからである。
 さて、そもそも現在の国際関係が多元的な状況であることは常識だ。諸国間の交流レベルは多岐に渡り、その間に動くアクターは外交官のみならず、政治家や民間人あるいは企業、そしてNPOなどであるからだ。多元的なアクターが国際関係の中で様々な交渉や折衝を進め、そうしたものの総体が国際間の外交となっている。事実、隣の韓国との間では、両国の民間人の訪問の総数は、年間500万人にものぼり、そうした民間人が様々なレベルで日韓の橋渡しをしている。
 そのため一般論として、北朝鮮との間でも多元外交を採用することが、北朝鮮との間に有る諸問題の解決に良い影響を与えるという議論が根強い。その文脈で、NPOや政治家などが外務省とは異なるルートを使って交渉を試みているのだ。これらは、多元外交の強みが発揮され、日朝間を良い方向に導くという幻想にも似た議論と行動だ。
 ここで忘れてならないのは、この多元的外交の強みは自由で民主的な国家間の間で成立するという点である。確かに、自由で民主的な国家間にあっては、多元的な外交関係は様々な諸問題の解決に有効だ。それは、自由で民主的な国家においては、国内の政策決定そのものが多元的であるからだ。国内の体制が自由で民主的な国家間であれば、外交問題についても多元外交によって解決していくことが期待できる。
 ところが、北朝鮮という国家は、名に知れた独裁体制国家で謀略を得意とする。いわば、極端な一元外交を謀略的に行なう国家である。こうした国家に対して、日本が多元外交を進めていくことに有効性は存在するだろうか。むしろ、多元外交の名の下で、北朝鮮に都合の良いように利用されるだけだ。それは、かつて政党レベルで行なった訪朝団が、体よく北朝鮮に利用された事実が物語っている。そもそも、独裁国家に多元性はあり得ないのだから、多元外交は成立しないものである。北朝鮮との多元外交は、北朝鮮が自由で民主的な国家へと変貌を遂げたときに、はじめて有効なのだ。
 今回の二人の政治家による多元外交は、やってはならない外交上の禁じ手だ。なぜなら、国内での民主的な政策決定とはかけ離れたパフォーマンスによるものだからである。そしてなによりも、北朝鮮の謀略にみすみす嵌ることになるからだ。それらは、「結果が良ければそれで良い」で済まされる問題ではないのだ。
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掲載日:9月20日(月)18:59:9
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 4 平成 16 年 4 月 10 日 》
イラク邦人人質事件で考えたこと
                   荒木和博(戦略情報研究所代表)
 今世間を賑せている3邦人のイラクでの人質事件は、その後自作自演説も出るなど、色々不可解な点が多いのだが、それを一旦措いて別の始点から見てみたい。
 
 彼らは自分の意志でイラクに行った。そのイラクでは相次ぐテロが起き、多数の死傷者が出ている。そういうところに行くからには当然本人たちは自分が死ぬことを覚悟してしかるべきである。
 
 現時点で公式的な政府の対応は毅然としたものであり評価されると思うが、一部のマスコミや団体に、これを自衛隊の派遣反対の世論を高めることに用いようとしているのではないかと思われる動きがあるのは懸念される。3人は騙され、あるいは強制的にイラクに拉致されたのではないということをまず認識すべきではないか。少なくとも自分の意志で危険なところに入った人間にあれだけ大騒ぎをするなら、北朝鮮に拉致されて行った人にはその数倍の関心を持つべきだろう。
 
 それにしても、半世紀前の戦争の後遺症なのか、あるいは世界全体がその方向にあるのか分からないが、私たちの感覚から「死」は随分遠ざかってしまった。しかし地域によっても異なるだろうがイラクでは死は生と紙一重のところにある。これはイスラエルでもパレスチナでも同様だし、実は9.11の起きたニューヨークやワシントンでもそうだし、地下鉄サリン事件の起きた東京でもそうなのである。もちろん、これはテロや戦争に限った話であり、事故や病気も入れればなおのこと人間は死に近いところにいると言えよう。
 「人命は地球より重い」というのは福田官房長官の父親である福田赳夫元総理の言葉だが、地球より重い人命と地球より重い別の人命ではどちらが重いのか、自分で危険覚悟で行った人間の命を救うためにテロの跳梁跋扈を許し、もって他の多くの人命を危機にさらすことは許されない。
 世界中でテロが起きている時代だ。日本にいる北朝鮮の工作員でテロを行える人間だけでも200人以上と言われる。有事のときに彼らはあちこちで破壊活動を行うだろう。誰がその巻添えになるかはまったく予測できない。しかし、そのテロに屈してしまえばより多くの被害がもたらされる。
 
 人間は常に「死」と隣り合せに生きている。命を無駄にしてはいけないが、生にとらわれすぎていてもいけないのではないか。「人命はすべてに優先する」というのは金科玉条であってはならない。必要とあれば軍人はもとより一般の公務員だろうが民間人だろうが命を捨てる覚悟は必要である。生への執着という呪縛から解放されたとき、私たちの行動はより自由になり大局的なものの見方ができるようになると思う。
 今回の事件の報道からそんなことを強く感じている。
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掲載日:9月20日(月)18:58:34
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 3 平成 16 年 4 月 7 日 》
官僚は公然と民間を叱れ
                   荒木和博(戦略情報研究所代表)
 このタイトルは逆説ではない。あえて、志ある官僚に公然たる民間批判をやってもらいたいという期待である。
 拉致問題をやっていて感じるのだが、官僚(特に外務省や警察)は少なくとも表面上は逃げに回るだけで、被害者や家族、マスコミ、あるいは私もふくめて救出の運動にあたっている国民に対する公然たる批判をすることはない。その代わり「外交上の理由で」「捜査上の理由で」ということで情報を開示しないという防壁をもって対峙しているのが現状だ。
 なるほど確かにそうしなければならない理由も分からないではないし、今の現状で官僚が救出運動を批判したりすればマスコミも含めて集中砲火を浴びることは間違いない。しかし、それでもなおかつ現状は変えるべきだと思う。
 例えば今問題になっている二元外交にしても、「外交交渉に一本化を」というのは筋であっても、ならばもっと外務省の言い分が公然と語られてもいいように思う(当然受取る側でもその片言隻句を捕えて非難するのは差控えなければならないが)。例えば「帰国している5人の家族を外交交渉で取り返すためには残り 10人と未認定被害者の問題は後回しにせざるをえない。もしすべての一括解決を目指すならあえて5人の家族の帰国は遅らせる覚悟を持つべきだ」というくらいのことは言ってもいいのではないか。
 交渉当事者からすれば「マスコミも運動体も勝手なことばかり言っているが、そんなに甘いものではない」という意識は当然あるだろうし、実際そうだと思う。その現実の一端でも正面から国民に訴える官僚がいてもらいたいと思うし、意見は異なってもその意見を語る場を保障する精神が私たち民間の側にも必要である。これは決して拉致問題に限ったことではなく、経済問題でも福祉問題でも同様のことは少なくないはずだ。
 私が見ていても一所懸命に働いている官僚は霞が関であれ現場の第一線であれ少なくない。その人々の体験や認識はこの国にとって宝であると思う。もちろん、民間にも民間だからこその体験や認識がある。官と民が同じ公(おおやけ)の立場で議論できたとき、その実りは非常に大きなものになるし、それこそが民主主義国家の強みであると思う。
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掲載日:9月20日(月)18:56:57
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 2 平成 16 年 4 月 2 日 》
自由社会の責任
―― 責任は回避するのではなく、負わなくてはならないものである ――
                             真鍋貞樹(戦略情報研究所専務)
 日本は自由社会である。誰もが言論・結社、さらには表現の自由といった根源的な自由権を持っている。今日に至って、そうした自由権を剥奪しようとする権力あるいは暴力が、顕著な姿で私たちの目の前に表れることは稀だ。ところが、北朝鮮による拉致問題によって、私たちの自由社会が幻想であったことを思い知らされた。それは拉致被害者が自由権を侵害され、それが長い間隠蔽されていたという意味で、日本が自由社会ではなかったことである。そしてさらに深刻な問題は、日本という国家と日本人に、自由社会を守ろうとする責任感が存在していなかった、という意味での幻想である。
 なぜ、拉致問題の解決がこれほどまでに時間がかかり、そしてまた長く隠蔽されていたのか。その一つの回答が、自由であるために不可欠な責任を負うことの自覚が欠落していたからに他ならない。むしろ責任を回避してきたのだ。
 人々が自由であろうとするときに、責任を負わなくてはならない。自由を手にするために責任を回避することはできない。もし責任を回避した自由が個人にあるとすれば、それは無秩序な原始社会の一員であることを意味する。原始社会とは弱肉強食の社会であり、近代から始まった人間の悟性に基づく合理的精神によって営まれる社会ではない。
 今日の日本は自由社会の一員と自負している。しかし、日本人が自由であろうとして責任を負うことの意識と行動が明確なものとして現れることが少ない。国民一人ひとりが自由であろうとしても、責任を負うことは忘れている。
 それは、具体的に安全保障の面で顕著に表れる。安全保障とは、国民の生命・財産を守るために最も重要な国家政策の一つである。その国家としての最大の政策である安全保障政策に、国民の一人ひとりがどのように関るかという点については、全くと言ってよいほど、他人任せだ。それどころか、有事法制の議論の際には、有事において政府の実施する国防政策へ国民の協力義務があるのか、またそれを拒否できるものなのか、という議論が盛んにされた。それらは国民の責任を回避しようとする議論だった。議論そのものがなされることには全く異論は無い。問題は、自らの自由を守るために、自らがどのような責任を負うべきなのか、という点の議論が全く欠落していたことだ。
 日本では国防を議論する際に、それに関わる一連の官僚機構と暴力機構、すなわち防衛庁と自衛隊のみの議論に縮小される。国防とは国民の自由を守るものだとすれば、そうした官僚機構と暴力機構のみに委ねればそれで磐石というものではない。有事の際には国民一人ひとりが、どのように自らの国、地域そして家族を守るのかを考えなくてはならない。日本国憲法には兵役の義務が除外されているから、国民には国防の義務が無いかのような錯覚に陥っている。国家を守る義務が国民に無いはずがない。
 拉致問題をはじめとして、日本の安全保障に関わる重大な事象が東アジア全域で広がりつつある。日本が自由社会の一員であろうとするならば、自らの国を自らの力で守り通すというごく当たり前の責任を負い、そして行動しなくてはならないのである。
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掲載日:9月20日(月)18:56:17
《 戦略情報研究所メールマガジン Vol. 1 平成 16 年 4 月 1 日 》
 ごあいさつ
                 荒木和博(戦略情報研究所代表)
 本日戦略情報研究所の登記が完了しましたた。まだ海のものとも山のものともつかない状態ですが、この国をとりまく状況は決してのんびり構えていられるものではありません。私自身拉致問題に関わって以来それを痛感してきました。そしてその思いは、やればやるほど強まってきています。
 ドン・キホーテとなるかも知れませんが、私たちの危惧が思い過しであれば、後に笑われればすみます。逆に「あのときの懸念は的中していた、あの時点で対処していれば…」などということになったら取返しがつきません。悔いのないように頑張ります。
 実はこんなことを考えるようになったのには自分自身の経験があります。私は大学を出てしばらくして、高校生のときから支持していた民社党の本部にアルバイトで入り、後に正式の書記局員として採用され、平成6年の解党まで15年間在職していました。書記局入局当時は民社党の党勢は比較的順調で、「83政治決戦」と言われた昭和58年には統一地方選、参院選、衆院選と勝利し、国会の議席は衆参あわせて50議席を越えていました。
 その民社党の党勢が傾き始めるのは昭和60年頃からで、内部抗争(と言っても少数政党ですから今から考えればコップの中の嵐に過ぎないのですが)をはじめとする様々な事件によって議席は減少を続け、最終的には新進党に合流する形で解党に至りました。
 党勢が衰えていくときの現場にいて、党の方向性について自分なりに「こうするべきではないか」と思ったことは何度もあり、ときどきは発言もしたのですが、自由にものの言えた民社党内でも、「自分の言っていることは少数意見であり、やはり和を乱すようなことは言わない方がいいのだろうか」と思い自己規制してしまったことが何度もありました。
 もちろんいま振り返って自分の思っていたことがすべて正しかったとは思いませんが、「たとえ徒労に終っても、あのとき身体を張って主張しておくべきだった」という悔いは今でも残っています。選挙に負け続けていたときの民社党は敗北の根本的理由がどこにあるのか、その核心に迫ることを避け続けて結果的には解党に至ったように思います。
 解党後、当時の民社党の状況を思い起しながら、オーバーラップしてきたのが大東亜戦争の戦争指導です。あのときの拙劣な戦争のやり方と末期の民社党の状況は色々な点で酷似しています。そして拉致問題に取り組みながら、戦前のこの国の欠陥はほとんど是正されることなく現在の日本の体制に引継がれているのではないかと思うようになりました。 
 戦前が100%素晴しい国で、それが戦争に負けただけで最悪の状況に向って突走るとは思えず、また逆に戦前が100%暗黒で、それが戦後になっていきなり世界第二位の経済大国になるとも思えません。歴史は継続しており、その意味で最大の心配は、大きな犠牲を払って得た「敗戦」という教訓をわが国は活かしていないのではないだろうかということです。
 民社党が解党に至ったのは政界全体の流れもありますが、主体的には自らのアイデンティティーを喪失し、より重要なことを放置してその場凌ぎを続けたからと言わざるを得ません。そしてその病いは今にして思えば選挙に負け始めてからできたのではなく、選挙に勝っているときから進行していたしたと断言できます。もちろん、党から給料をもらっていた私自身末端ではあってもその責任を逃れることはできませんが。
 政党が一つなくなるだけなら大したことではありませんが、国家の衰亡は絶対に避けなければなりません。大東亜戦争がそうであったように、第一線の将兵がいかに勇敢に、献身的に戦おうとも中枢が思考停止になれば結果は自ずから明らかです。戦略の誤りは戦術ではカバーできません。これからの日本がそうならないように、ささやかながら努力して参ります。何卒よろしくお願い申し上げます。


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